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ep6 ターニングポイント

 「それで、あなたは何をしにきたの?私に用があるんでしょう。」


 サファは大きなトンボの背を撫でながら問いかけてきた。


 「うーん、用事は特に無いんだけど、きみのお兄さんに様子を見てほしいって頼まれてね。」


 彼女は少し疑いながら僕の様子を観察している。


 「まぁ、それはいいわ。それともう一つ、何しにここに来たの?」


 「え?用はないって答えたでしょ?」


 「あーもう!そうね、何しにコランダム族のコロネルに来たのよ?」


 彼女は髪を手でき乱しながら聞いてきた。


 ああ、同行してルビたちと帰ってきた理由か。


 「―答える前にさ、僕からも教えてほしい。何で帰還した話を君は知ってるの?」


 彼女は一度もルビたちに会っていなかった、そんな彼女が僕らが帰ってきたのを どうやって知ったんだろうか。


 「―私はウィナーバグの言葉がわかるの、彼らが私に知らせてくれたのよ。」


 ウィナーバグ…すごい名前だ。


 音を飛ばしても伸ばしてもいる。


 ( ウィナーバグはハーラの民…三部族の、エメリーのトーテム(シンボル)にもなっているからな。)


 何か分かんないけど、とても賢い虫なのはわかるよ。



 「今度はあなたの番、なぜここにきたの?」


 少し名前のインパクトで思考が脱線してしまった。


 「うーん、なぜかはわからない。けど、ルビを助けに空から降ってきた?のかな…」



 僕はこの世界に来る前の出来事を思い出してみた。


 少し落ち着いた今でさえ "試練"や"救世主"なんて何をいってるんだか自分でも検討が付かないし、受け入れられない…



 「ルビを助けに、か。ルビが災いに巻き込れてるって言ってるようなものだわ。」


 彼女はジッとこちらをみて言った。


 「確かに、僕はきみのお兄さんに2度も命を救われてるし、ルビが困るところなんて想像も出来ないけどね。」


 あ、そういえばルビに妹の事で困って頼られてきたんだった。けど、命の恩人に違いない。


 ( ―すまん…)


 「あたりまえよ!兄さんは凄いのよ!」


 彼女は 嬉しそうに笑みを浮かべてそう言った。



 なんだ、やっぱり兄弟仲いいんじゃん。何か僕まで嬉しいや。


 ( …俺は サファの為に何もできていない…)


 ルビの心は依然いぜんくもっていた。


 「サファ、ルビは 今かなり落ち込んでるんだ。きっと君のことが心配なんだよ。今からでも一緒に帰らない?」


 「…あなたが部族のみんなとは違うってわかったわ。でも私は帰りたくない。」

 

 「―ひとりは楽だよね。僕は一人でいる方が好きだからさ、他の人がどうこう言ってくるのは耐えられないから。」


 彼女はうつむきながら静かに首を横に振った。


 「私は別に本当にみんなの事を拒絶したいわけじゃない。自分を犠牲にしてまで人を助けるなんて間違っているのよ。」


 「僕はそこまでおかしい話でもないと思うけどな。」


 彼女はわからないと首を傾げている。


 

 僕は何でそんな事を言ったのだろう。


 「僕はルビたちと会ってから何となく豊かになったんだ。」


 自分でもよくわからなくなっていたが彼女に伝えなければと思いから考えるよりも先に口から言葉が出た。


 「きみが何にそんなに心を痛めてるのかはわからない。

 けど、僕がここにいるのも 他人を助けたいっ動いてくれたルビたちが居たからだよ。」

 

 「けど、私は違うわね。そんな風には思えない。」


 彼女は夜空に輝く星々に手を伸ばして言った。


 「みんなにはあっても、そんな生き方はみてるこっちが辛くなってしまう…私っていつもそうなのよ…」

 


 ( サファ…俺は知らないうちにお前を追い込んでしまっ    ていたんだな…)


 「違うよ!それは違う。僕はきみが優しいからそう思うんだよ。」


 「優しい?私が?」


 「僕にも弟がいてね、君と違って正直にいうと素直に相手を尊重するなんて出来なかったよ。」


 「成績優秀、スポーツも出来る、イケメンで人当たりがいい。非の打ち所がない奴でさ。

 僕は全ての才能を持っていかれたって思って、腹の底では認められなかった。」


 口に出して胃が縮むのがわかる。それでも伝えたい。


 「それでも、わかってたんだよ凄い奴だって。僕が苦しんでいたときに一番悲しむのは弟だった。自分が傷つけばそれでいいって言う僕を怒って親身になってくれた。

 ―君もそうだよね。」


 彼女は泣いていた。しばらく泣いて、泣き止んだ後にこう言った。


 「いいこというわね。バカらしい、ルビに文句の一つも言ってやらないとっ」


 彼女はそう言って立ち上がった。


 「うん、そうだね。一緒に帰ろう。」


 すまないね、ルビ…


 ( いや、ありがとう。)


             ♢


 僕らがコロネルに帰ろうとした時には月が西に沈みかけていた。


 「そういえば、私まだあなたの名前を聞いていなかったわね。」


 帰り道の半分を差し掛かって、彼女は歩きながら僕に聞いた。


 「そうだね、そういえば名乗ってなかった。キョウ•ユウで経優。苗字は無神だよ。経優 無神。」


 「経優、へぇ。あなたも何か特殊な力があるんだ。そんな感じはしなかったけど。」

 

 「僕は何も出来ないけど、コランダム族の人はみんなポラリス(北極星)の使者だーって言ってたよ。」


 「へぇ。ポラリスの使者か、あんたも災難よね。」


 彼女は他の人たちとは違って驚く素振りもなく返事をした。

          

 「うん、ちょっと大袈裟だとは思うよ。星と僕は全然関係ないし。」


 「それは違うんじゃない?」


 「え?」


 彼女は立ち止まり振り向くと真剣な目で言い返す。


  「ほら、あなた星が好きじゃない?さっきも月が綺麗だって言ってたじゃない?」

 

 「あ、ああ。そうかも、そうだね。けど、きみの様な不思議な力はもっていないよ?」


 よかった。ここが異世界だから婚約の意味はないみたいだ。


 彼女は本当かなぁと呟くと再び歩き出した。


 「私はあなたが星と全く関係がないとは思えない。だってあなたは人を導けるじゃない。」


 「導ける?僕が?いやいや、全然だよ。」


 「あー、今のはポラリスを意識して引っ張られた、"導く"じゃないわね 人を変えられるだわ。」


 「あなたは人を変わりたいと思わせる才能がある。

 さっき星を見ていたあなたの目は輝いてたし星読みの才能もあるかもね。」


 変わりたいと思わせる才能?ないなぁ、きっと。


 僕はもう一度 星をみた。


 いつもと変わらずに輝く星に僕は違和感がした。


 そうだよ、何で気づかなかったんだ!


 正面に春の大三角、アークトゥルス、デネボラ、スピカそれにおおぐま座、うしかい座、おとめ座があって春の大曲線…


 月のクレーターが生み出す模様までが僕のいた世界と変わらずそこにある…


 「異世界じゃない!」


 「どうしたの急に。」


 「ほら、おおぐま座の位置。北斗七星の並びもそうだし、動き方も春のものだし子供の頃から見てきたから間違いない北半球の星空だ。」


 「やっぱり!あなた星と関係ないって言ってたじゃない」


 彼女は立ち止まり、ほっぺたを膨らましていった。


 ( 経優、どう言う意味だ。)


 二人に言われて我に帰る。ここが僕のいた地球と殆ど同じだった。これをどう説明すれば…


 「うーん。僕は、ここじゃない重なった世界から来て、違うな…」


 「僕はここと同じ場所だけど、別の宇宙からきたんだよ。重なりあった宇宙?かな…」


 「どういうことよ!」


 「共通点が多い世界からきた。」


 「…分からないわ、頭が痛くなるから辞めましょう。日が変わる前に帰らなくちゃいけないわ。」


 「うん、なんかごめん。」


 ( 俺は何となくだがわかったぞ。)


            ⭐︎


 日が上り朝がきていた。

 

 俺は本来なら自稽古を始める時間にコロネルの入り口に腰をかけて二人の帰りを待っていた。


 「あいつら、随分と遅い。何もなければいいが。」


 東の日の出を眺めながら、思わず心配事を口に出していた。


 「ルビ、お前がこんなところにいるのは珍しいな。妹君を待っているのか。」


 「うむ、経優に頼んである。俺がいければよかったが…」


 フロウも心配して来てくれたのか。そういえば伝え忘れた。


 「―ルビ、奴の何処に大事な妹君を任せられる?どんなやつかも分からない奴に。」


 ―俺は あいつがサファを連れてきてくれると直感があった。それに経優は何か持っているやつだ。


 「分からんが奴は人として信頼できることは確かだ」


 「直感、か。俺はそこまで信用できないが。」


 フロウは経優に気を許していないのか。




 「俺は俺のやり方で奴を試す。いいな。」


 「ああ、それがいい。」


 フロウはそう言うと奥へと姿を消した。


 あいつが用心深いのはあるが、あそこまで懸念けねんするのも珍しいな。


 「ん?」


 朝日の中から二人の影が見えた。


 「よかった」


 彼は今までで一番、直感が当たった事を嬉しく思うのだった。


            ⭐︎


 こんばんは、石乃岩緒止いしのいわおとです。

いつもご愛読ありがとうございます。

 次回、コランダム族の主要キャラが出揃ってくると思います。お楽しみにー ばいばい。


 

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