ep2 赤い世界へ後編
ルビさんが示した方角はありがたい事に追い風が吹いていた。
正面からみて太陽が左に沈んでるってことは北に目的地があるんだな。
風向きも変わらず、太陽の位置もバッチリだし、これなら楽勝だ。
僕は希望に胸を膨らませながら大きく足を踏み出した。
♢
歩き始めて数時間が経過し、日が傾き始め自分の考えが甘かったと自覚した。
最初は砂の感触が新鮮で、一歩一歩ワクワクしながら歩いていたが、少しも時間が経たないうちに早くも疲れが出てきた。
やばい、足が上がってこない…ルビさん、後どれぐらいかなぁ。
体力は消耗しても直ぐに癒える。だが精神力はすり減ったまま回復しないようだ。
( だいぶ辛そうだな。だが、もう直ぐそこだ。)
え、どこ?何も見えないけど、
遠方をみても何も見えてこない。
( ここからならもう見えるはずだが…ほらあそこだ)
うーん。目の前には何も―あ!あれかな?
まだ点のようにしか見えないが緑色の何かが見える。
( そうだ、あと30分も立たずに着く。)
本当?!よっしゃあ、頑張ろ。
途端に活力が湧いてきた。
ルビが言っていたことは本当だった。
進めば進むほど点ほどしかなかった緑がみるみる大きくなっていく。
15分ほど歩いて、ついに目的地に辿り着いた。
本当にこんな所で会えるのだろうか。
砂漠には似つかない緑の正体は大きな岩に申し訳程度にちょこっと張り付いているみかけ倒しだった…
一言でいうとコケ石。道端に落ちていそうな…
ルビさん、本当にここに居れば会えるんだよね。
( ああ、直ぐにな。俺の記憶が正ければ立ち寄るはずだ。)
夕日は地平線に沈みかけ、世界は一層赤みを増していく。
「ウオーーン!」
夕日の向こうから明らかに不穏な生き物の遠吠えが聞こえてきた。
太陽の逆光にオオカミらしき影が見え隠れしている。
知らないうちにオオカミの群れが僕らがいる岩場を取り囲んでいた。
どうしよう、これまずいよね。
( 夕暮れ時に奴らは動き始める。岩に背を預けていろ。)
岩肌に手を置いて注意深く周りを観察する。
暗くてよく見えないが、オオカミの影がだんだん距離を縮めてきている。
「グルルルル…」
一瞬、動きが止まり静かになった。
これってやばいんじゃ…
( 大丈夫だ。俺を信じろ。)
太陽が沈み、暗がりの中で獣が素早く獲物に接近する。
目にも止まらぬ速さで闇の中を駆け抜けて喉元めがけて飛びかかった。
やばい、食われる。
わかっていても、反応出来なかった。
期待した僕が愚かだったのだろう。
解放され、今度こそ ここには自由があると思っていたのに―こんな呆気なく終わるのか。
目の端で微かに何かが動いた。
ザッ。
「くっ。」
そこにはいるはずのない人がいた。
ピンクの髪に長身の男。ルビさんがいた。
彼の手に、真っ黒の大型犬サイズのオオカミが喰らい付いている。
「ルビさん、手が…」
「はっ、」
ルビさんは噛ませたまま、薙ぎ払って退けた。
腕に目をやると血が一滴も流れていなかった。
確かに噛まれたのに―
「大丈夫か、」
「あ、うん。そうじゃなくて!腕は大丈夫なの?」
「これか、大丈夫だ。傷にはならん。」
彼はそう言って噛まれた方の腕を見せたが、歯型が残っているだけで、傷ひとつない。(歯型ですら擦れば取れそうだった)
腕のことも充分驚いたが、顔を見て、本当にルビさんなんだと分かって頭が事実に追いついてこない。
いや、でも理解するより先に言わなくてはならない事があった。
「ありがとう、助けてくれなかったらどうなっていたか―」
そう言って彼にお礼を言おうと顔を上げたとき、背後に黒い刃がルビさんを襲いかかっていた。
「ガッ…」
「おいおいルビ、狩の最中に気を抜くなよ。」
ルビさんを救った男が用心しろよと彼の肩をポンポンと叩いた。
「すまん、助かった。」
「お前の事だから手を貸すまでも無かったんだろうが、ひとつ貸しな!」
赤褐色の肌に淡いピンクの髪をしている。この人もコランダム族の人なんだろうな。
彼は嬉しそうにルビさんにそう言うと、僕と目が合った。
「んで、お前誰よ。見ない顔だな」
僕は聞かれたので名前を名乗った。
「無神 経優。好きな方で呼んでよ。」
さっきまでの活気のある雰囲気が嘘のように、鎮まり帰った。
「キヨーユ。それは俺たちを馬鹿にしてるってことか?」
暗がりの中、瞳の奥に鈍い光を灯しながらそう言った。
遂にコランダム族と出会えた。ルビと無神。
無神は彼らと上手くわかり合うことが出来るのか、、、
いつもご愛読ありがとうございます。
少しずつですが投稿頻度を落とさないように頑張ります。ばいばい。