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第39話 ルナVS十二眷属


 神歴1012年、3月6日――ギルティス大陸南東、滅びゆく村。


 午後1時32分――宿屋一階、玄関近くの共有スペース。


「レプは!?」


 真っ先にそう発したのは、アリスだった。


 金切り声とまではいかないが、明らかに普段の語調(それ)とは違う。取り乱しているのは明白だった。


 と、それを受けたタンタンが、ゆっくりとこちらに近づきつつ、


「無事だよ。ちょいと眠ってもらっているがね。あの娘はメインディッシュだ。最後にじっくりと、これ以上は無理ってまでに八つ裂きにしてやる。十二眷属であるオイラを、犬っころか何かのように扱いやがって……。挙句、タンタンなんてふざけた名前もつけられた。オイラには、ガゼル・ヴァルハウンドっていう立派な名前があるのによぉ」


「ガゼル・ヴァルハウンド……」


 ルナはおうむ返しにつぶやいた。


 ガゼル・ヴァルハウンド。獣タイプの、十二眷属。勝手な思い込みで、十二眷属は全てが人型だと思っていた。ナギとナミの手によって生み出された『生命体』というだけで、人型であるとは一言も定義されていなかったのに。先入観に踊らされて、真実へと至る道を自ら閉ざしてしまっていた。ルナは深く反省した。


 とまれ。


「アリスさん、戦闘の準備を。わたしたち二人で、()()()()を倒します」


 言って、ルナは腰もとからダブルを抜いた。


 ゲルマニウム。


 リリースの言葉を受けて、黒光りするその刀身が満を持して日の目を見る。


 それを見たタンタン――ガゼルが、ニヤリと笑う。


「黒刀ゲルマ。切れ味特化の大刀式ダブルか。生粋の剣士ってところだな。オイラも魔法を使わない、生粋のファイターだから通じるものがある。力のない無抵抗な人間を殺すのも悪くないが、ある程度戦える奴を『分からせてから殺す』ってのも乙なもんかもしれんねぇ。もっとも、オイラは魔法どころかダブルさえ使わないが」


「使えない、の間違いでは? その可愛らしい身体では、ダブルは重くて持てないでしょうし。動物虐待の趣味はないので、一瞬で片をつけます」


「二人がかりでも、卑怯って言わないでね!」


 ルナの言葉に続くように、アリスが『アセンブラ』を構えて言う。


 ガゼルは、かっかと笑ってそれに応じた。


「言わない言わない。千対一でも、オイラは卑怯と言わないよ。殺し合いに卑怯もクソもないだろ? いや、卑怯も立派な戦術のひとつ。オイラはそう思うね」


「そうですか。では、遠慮なく――アリスさん!」


仮初の強化(テンポラリーブースト)!」


 呼びかけに応じたアリスが、すぐさまルナの身体に肉体強化のバフをかける。


 仮初の強化(テンポラリーブースト)


 アセンブラに組み込まれた――五分間のあいだ、対象の身体能力を一倍半に引き上げる優れた補助魔法である。

 

「わたしはブレナ自警団のルーナリア・ゼイン! たとえ相手が十二眷属でも、二度も無様はさらしません!」


 頼りになる親友に頼もしいブーストを授けられ――ルーナリア・ゼインの、二度目の十二眷属戦が始まる。



      ◇ ◆ ◇



 同日、午後1時37分――宿屋一階、玄関近くの共有スペース。


 ()()()()()


 ルナは心中で短く舌打ちした。


 ちょこまかと、小さな身体で縦横無尽に動きまわる。


 そのとてつもないスピードもさることながら、何より厄介なのはその小さすぎる肉体だった。


(的が小さすぎて、点でとらえないと攻撃が当てられない……!)


 ハエや蚊を斬り捨てるのが難しいように、的が小さければ小さいほどヒットさせるのは難しい。おまけにこのスピード。フィジカルは強化されたが、それ以上に大事な『目』の部分の強化がなされていないのも、とらえられないひとつの要因となっていた。


「おいおいおい、嘘だろ? いくら魔法で強化されてるとは言え、オイラの動きにここまでついてくるなんざまともじゃない。ひょっとして、風のうわさで聞いたトレドとチレネを殺った人間ってのはおまえのことなのか?」


 四方八方と動きまわりながら、ガゼルが驚いたような口調で言う。


 彼のほうからすれば、いまだ仕留めきれていないというのが、衝撃なのかもしれない。だがだとしたら、甘くみられたものだ。


 確かにこちらの攻撃はまだ一斬たりとも命中していない。反面、もうすでに相手の攻撃(基本、ガゼルの攻撃はそのスピードを生かした体当たりである)は十発近くも喰らっている。ヒットアンドアウェーを繰り返すガゼルのほうが優勢なのは、誰の目から見ても明らかだろう。


 だが。

 

(……トレドさんのような『怖さ』はない。手数は多いけど、一撃が軽いし、強化魔法で防御力がアップしてるおかげもあって累積ダメージも高が知れてる。魔法の脅威もないし、いざとなったらアリスさんの回復魔法も――)


 期待できる。


 と、胸中でそう続けようとしたところで、相手の動きに変化があった。


 変化。


 それは、ルナが待ちに待っていた『待望の変化』だった。


(好機っ!)


 ルナは思わず、胸中で叫んだ。


 ターゲット変更。


 ガゼルが、不意に攻撃の矛先をアリスへと変えたのである。


 おそらく、彼の狙いは最初から『そこ』にあったのだろう。

 

 前衛(こちら)をターゲットにしていると思わせておいての、後衛(アリス)潰し(狙い)


 だが、ルナはガゼルのその狙いを完全に読んでいた。


 後衛を先に潰そうと考えるのは、ごく自然な発想だ。それがヒーラーなら尚更のこと。敵の補給路を残したまま、馬鹿正直に戦う馬鹿はいない。


 ルナは、無駄のない一歩を踏み出した。


 最短距離で、そうしてガゼルの後ろ姿に神速の斬撃を振り下ろす。


 相手が獲物を狙う瞬間は、最大の好機――必ず隙が発生する。


 ルナの脳裏に『確信』の二文字が浮かぶ。


 当たる。


 確実に、当たる。


 完璧に、点でとらえた。


 ルナは瞳に勝機を浮かべた。


 だが。


 ゼロコンマ数秒の(のち)、まるで予期していなかったまさかの『事象』が彼女の身体を無常に砕く。


 ひらいた指の隙間から、勝機の二文字がこぼれて落ちる。


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