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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

復讐をしてはいけない本当の理由

作者: 騎士ランチ

 中学生の頃、僕はイジメられていた。頭と口が臭いとか名前がオカマみたいだとか、班行動について行けず移動教室で何度も迷子になったからだとか、イジメっ子達は僕が悪いみたいな言い方をしていた。


 イジメのやり方も本当に姑息で、席替えで隣になった女の子が何もしていない僕の方を見て泣き出したり、男子の場合は僕の言葉を他の誰かがオウム返しして、それを聞いている他の男子が一斉に笑うという感じの事をやっていたりした。


 ある日、母子家庭で殆ど学校に来ていない山田さんが珍しく学校に来ていた。話し相手が居なくて可哀想だと思った僕は、山田さんに話し掛けた。昼休みにお弁当を交換したり、一緒に帰ろうと約束したり、友達が居ない同士仲良くやっていた。


 そんな平和は突然にぶち壊された。僕が山田さんに嫌がらせをしていると皆が言い出したのだ。僕のやっていた事がストーカーだとか言いふらされ、僕は先生に呼び出された。


「お前、何であんな事やったの?」


 先生は、始めから僕が悪いって前提で問い詰めてきた。その事がショックで何も話せないでいると、先生は更に信じられない事を言ってきた。


「何でやったか当ててやるよ。山田が自分より弱いと思ったからターゲットにしたんだろ?」


 ターゲット?僕は先生が何を言ってるのか分からなかった。


「ターゲットって何の事ですか?」

「とぼけるんじゃないよ。お前のやった事は全部バレてるんだよ。嫌がらせをしていたって皆が言ってたし、山田からもお前を注意して欲しいって頼まれたんだよ」

「あの、ですからその嫌がらせって何なのか…」

「お前、山田の弁当食っただろ。それで自分の食べかけを山田の弁当箱の隙間に押し込んだそうだな?」


 ああ、僕が山田さんと昼休みにしているいつもの事か。その時に何かがあったって事かと思い僕は聞き返した。


「ええ、その事なら身に覚えがあります。でも、それが何か?」

「何を開き直ってるんだお前!」


 突然先生が怒り出した。怖いし全く意味不明だ。教師は社会人経験が無いから、たまに頭のおかしい人が居たりするってネットで聞いた事あるけど、僕の担任がそうだったみたいだ。


「下校中につきまとってるとかも言っていたぞ!山田がまた学校に来なくなったら誰のせいだ?言ってみろよ!」

「山田さんの自己責任では?」


 思った通りの事を口にした。友達が居ない彼女の為にあれだけケアしてあげたのに、それでも学校へ来ないのなら、それは彼女の甘えだと思った。本音を言えば、山田さんもそろそろ僕以外と仲良くして欲しいと考えていたんだ。


 まあ、このクラスの連中は僕をイジメる様な奴らばかりだから、友達になるのは難しいだろうけど…そうだ、この機会に僕へのイジメについて先生にハッキリ言っておこう。


「先生、イジメしてました」

「そーかそーか、何でそんな事をした?」

「多分、何も考えて無かったんだと思います。こいつなら攻撃してもいいやって判断してやったんですよ。そんな奴は反省なんてしません。先生の手で罰を与えて欲しいです」

「本当にそれで良いのか?停学になったら親が悲しむぞ?」

「僕の覚悟は出来てます。お願いします。イジメを辞めさせる為に停学にして下さい!」

「あー、分かった」


 翌日、何故か僕の親に停学の通知が届いた。僕は両親に怒られ、皆からはイジメっ子なのに被害者ぶってるだの、一度は反省したのに実際に停学になった途端逆ギレしただの、酷い嘘が飛び交っていた。そんな嘘は卒業式の時まで続き、僕は停学が開けてもクラスに居場所は無かった。昔のドラマであった「おめーの席ねーから」をリアルでやらされ、保健室で授業を受けさせられた。


 それから二十年、あの時のイジメが尾を引いて、僕はバイトを転々としていつまでも定職に就けないでいた。どんな職場へ行っても、ある程度は仲良くなるのだけど、中学時代のイジメを受けた話をした途端、距離を取られてシフトも減らされて、終いにはクレームが来たとか言って首にされる。一定期間働けば正社員になれる派遣の仕事や、ライターの仕事、マルチや裏バイト、転売やユーチューブにも挑戦したけど、どれもクビになった。ユーチューブの時なんて、中学時代のイジメの話をした途端炎上してアカウント停止になってしまった。


 それもこれも、絶対に中学時代のいじめっ子の仕業だ。僕が過去のイジメを口にする度に、職場の人達の見る目が変わるのだから、あいつらが影で僕の悪評を広めているに違いない。


 僕は自分の人生を取り戻す為に復讐を決意した。これまでの仕事でコツコツ稼いだお金で国政選挙に立候補する。僕をイジメて来た奴らは、ユーチューブや闇バイトの元締めにも影響を与える程のしつこさだが、議員候補の演説を消す事は流石に出来ないだろう。


 今年の参院選に立候補すると両親に報告したら、恥ずかしいから辞めてと言われた。


「頼むから、もうこれ以上皆に迷惑を掛けないで、家でじっとしていてくれ。お父さんとお母さんが死んでも、お前が働かなくて食べていけるぐらいの遺産は残るから」

「二人共安心して。僕は頭のおかしい泡沫候補じゃなくて、目的意識を持って立候補したんだ。それに、社会にでて働こうとする息子を止めるなんて、お父さんとお母さんの方が恥ずかしいと思うよ?」

「そう思うんなら、もう私達はお前の親じゃ無い!勝手にしろ!」


 そう言って、彼らは本当に僕と親子の縁を切ってしまった。僕は親戚のおじさんの養子になっていて、そのおじさんもずっと前に死んでいる。怒りや悲しみは無かった。ただ、親子関係って無くす事出来るんだなあとか、僕に隠れてよくもまあ色々やれたものだなあと、感心してしまった。


 まあ、過去に囚われても虚しいだけだ。今は前を向いて復讐を果たそう。そう思い直して、僕は中学時代の学ランの上からタスキを掛けて、更にその上から選挙ポスターを拡大コピーして生地にプリントしたマントを羽織り、駅前で演説を始めた。


「こんにちは!無所属無職中卒中年、僕です!今日は皆さんにお伝えしたい事が有って演説に来ました!それは、イジメに関する事です!今から二十年と少し前、僕は母校でイジメを…」


 駅の出入口で演説をしていると、見知った顔が改札から出て来た。それは僕をイジメていたクラスのリーダーだった。彼だけじゃ無い。彼の隣には担任の先生が、そして、二人の後ろにはゾロゾロと三十人ぐらいの行列が続き、全員が中学のクラスメイトだった。


「うおおおおー!」


 僕は迷わず逃げた。やっぱりそうだ。こいつら全員、僕の事を集団で監視して、邪魔をし続けていたんだ。このままここに居たら殺されるかも知れない。そう思った僕は、必死で走った。マントを踏んづけてすっ転び、ズボンが脱げてパンツが落ちても走り続けた。


「清き一票お願いしま〜す!」


 大久保から新大久保ぐらいの距離を走り続けた所さんで、僕は警察に捕まり、事情を聞かれた。当然、僕は簡潔に答えてやった。


「駅から中学の同級生と教師がほぼ全員同時に現れたんです!僕は、集団ストーカーに襲われてるんです!」

「それ、同窓会じゃないの?」

「違いますよ!同窓会なら僕にも通知が来ているはずです!」

「はいはい、取り敢えずご家族が来るまで大人しくしててね」

「家族はいません!出馬の時に縁を切りました!」


 翌日、警察からは解放されたが、僕の名前は立候補者から消えていた。昨日の行動のどれかが選挙法的にアウトだったのだろう。多分、ポスターをマントにした事だ。


 僕は困った。元々当選するつもりは全く無かったが、復讐の手段がいよいよ無くなってしまった。まさか、あいつらが選挙活動すら封じてくるとは思わなかった。働こうにもハローワークのブラックリストに載せられてどこも雇ってもらえないし、マグロ漁船も、仕事仲間を二人海に落としてしまった時に出禁になったし、内蔵売りは診断で落とされた。


 遺書を残して自殺は当然選択肢には無かった。復讐とは自分が幸せに生きる事って言うし、死後に遺書が握りつぶされたり改ざんされたりしたら目も当てられない。何より、この目でざまぁが見たいんだよ僕は。


 復讐には金が要るけど仕事もなければ親も頼れない。更に、ここぞとばかりに大家から一方的に賃貸契約を打ち切られた。支払い能力が無く、近隣からクレームが出ているという理由でだ。きっとこれも同級生の仕業なのだろう。


 僕は唯一残された財産であるスマホを手にアパートを出る。季節は冬。下半身に履くものが無い僕に冬の夜風はこたえる。


「お前ら、いい加減にしろよ。これもう、いじめってレベル超えてるからな。犯罪だそ?」


 公園の遊具に身を潜めた僕は、どこかで見ているはずのいじめっ子に向かって語りかけるが、当然返事なんて無い。その代わりというべきなのか、偶然なのか、スマホから突然着信音がした。


「んぎっ!」


 僕の頭に衝撃が走る。驚いた拍子に遊具に頭をぶつけたからだ。頭をさすると血がべっとりとついていたが、スマホの着信が気になったので、そちらを確認した。


「復讐代行アプリ…?」


 スマホには謎のアプリがインストールされていた。血塗れの手を砂と草で洗い(トイレも蛇口もない公園だった)、アプリを開くと、開始画面が現れた。


【復讐したい相手と復讐方法を選んで下さい】


 これがただのジョークアプリなのか、読み放題ネット広告漫画の一話目なのかは分からないが、他にすがる物も無い僕は頭がズキズキ痛む中、入力を開始した。


 まずは、いじめっ子の名前…駄目だ、殆ど思い出せないし、そもそもここに入力出来るのは一人だけだ。いじめの黒幕は誰かも分からないし、どうすればいいんだ。


 それに、復讐方法。これも悩ましい。殺すのが良いか、社会的に終わらせるのが良いか。そもそも僕は誰に復讐すれば良いんだろうか?


「うーん、これでよいか」


 色々と考えた結果、僕は復讐相手の名前は【20✕✕年アヘアヘ中学卒業生でいじめ行為の中心となった者】、復讐の内容は【一生精神病院で暮らす】とした。まあ、こんなもの書いても、何も起こらないだろうが、気晴らしにはなった。さて、新しい住処を得るために、住民票を取りに行くかと立ち上がった僕は、また遊具に頭をぶつけて気を失った。


「…って事があったんですよ。今にして思うと、あのアプリもいじめっ子のイタズラだったんじゃないかと思うんですけど、看護師さんはどう思いますか?」

「今はそんな事を聞いてません。自分がどうしてここに来たか言えるかを聞いてるんです」

「それはですね、僕が中学の時にいじめに遭いまして…」


 あの後僕は、気がついたら病院にいた。この病院ではスマホの持ち込みは許されておらず、退院したら返して貰えるとの事。僕は頭に大きな怪我をしているから、それが治るまでは退院も出来ないしスマホも返して貰えないらしい。


「中学の時の話は大体分かりました。では次は、どこでお仕事をしていたかを教えて下さい」

「色々いっぱい!最終職歴は政治家です!」


 ここに入院して漸く僕は理解した、復讐はやっちゃいけないんだよ。


 よく、復讐は何も生まないとか復讐は連鎖して不幸が新たに発生するとか、やり過ぎになるからとか反省させて更生させるべきとか言うよね?あれは全部本質を突いていない。復讐がダメな理由の本質に届いて無いから、納得出来ないんだよ。


 じゃあ、何で復讐はダメなのか?その本当の理由を教えよう。それは、『成功しないから』さ。

 だって、考えてもみなよ?復讐したくなるぐらいの酷い目に遭ってる時点でそいつは運も実力も味方も無いし、いじめた側は他人を傷つけて平気な顔してる様な奴だよ?そんなの相手に、やり返してやるって力んだ所さんで勝てる?僕は二十年負け続けたよ。


 復讐漫画とかが成り立つのは、いじめっ子が不自然なまでに隙だらけで雑魚に書かれて、復讐者が謎のパワーアップをしてるからその復讐が成り立つんだ。


 いいかい?復讐の良し悪しを語ってる奴らの大半は、その復讐が完全に上手く行く前提で話をしてるんだよ。その上で倫理観とか己の心に決着を付けるとか言ってるから、おかしな事になってるんだよ。彼らは復讐の良し悪しなんて語っていない。エンタメとして、復讐ものが楽しいかどうかを話してるんだ。


 だからさ、もし君が復讐を考えてるなら、諦めた方が良いよ?復讐を決意した時の君は、脳のリミッターを外して全能感に浸ってるかも知れないけど、君をいじめた奴らのリミッターなんてとっくに外れてるんだよ?君がスーパーだとしたら、相手は身勝手ぐらい差があるよ?


 復讐、辞めときなって。相手は漫画みたいに顔芸しながら棒立ちなんてしてくれないよ?いじめ現場を録画なんてしても、秒でバレるし、君に秘めた才能は無いし、頼れるヒーローなんて来ない。第一、復讐の内容って大体は暴力か脅迫になるよね?それって、いじめっ子とやってる事一緒じゃないか?善悪うんぬんじゃ無くて、相手の方がその道の先輩なんだから勝てないって話をしてるの。辞めるんだ。僕みたいになりたくないなら。


 復讐ダメ、絶対。


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― 新着の感想 ―
とにかく暗い話でした。 タイトルから主人公が復讐を成し遂げて「これで自分は幸せになれる」と思っていたところに、 知りたくなかった現実を知ってしまい、「こんなことなら復讐しなきゃよかった」と後悔する話か…
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