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ネジ

作者: 安永祐二


ある日、男は目を覚ました。いつものように。


いつものように、彼はベッドから起き上がり、いつものように、顔を洗った。しかし、いつものように、鏡に映る自分の姿を見たとき、男は息を呑んだ。そこには、男の姿はなかった。代わりに、無数のネジと歯車が複雑に絡み合い、奇妙な機械仕掛けの身体がそこにあった。


男の身体は、もはや血肉ではなく、金属とプラスチックで出来ていた。心臓の代わりに、正確に作動する精密な歯車が回転し、肺の代わりに、空気圧で動くピストンが上下に動いていた。指先には、かつては指紋があった場所に、今では小さなネジが並んでいた。


男は自分の身体を触ろうとした。しかし、触れたのは冷たい金属だけだった。彼は自分の身体を動かすことができた。しかし、それはもはや自分の意思ではなく、複雑な機械仕掛けの動きだった。まるで、自分の身体が、自分とは別の存在によって操られているかのようだった。


男は混乱し、恐怖に駆られた。彼は自分の身体が、自分のものではないことに気づいた。彼は、機械仕掛けの人形になってしまったのだ。


男は鏡に映る自分の姿を見つめた。その目は、人間のものではなかった。それは、無機質なガラス玉のように、冷たく光っていた。男は、自分の身体が、自分の魂を宿していないことに気づいた。


男は、自分が一体何者なのか、そして、なぜこのような姿になってしまったのか、理解できなかった。彼は、自分が人間ではないことに気づいた。


男は、自分が一体どこへ向かうべきなのか、そして、一体何をすべきなのか、分からなかった。彼は、自分の存在意義を見失ってしまった。彼は、人間ではない。


男は、自分の身体が、自分の意思に従わないことに気づいた。彼は、機械仕掛けの人形になってしまったのだ。彼は、人間ではない。彼は、機械仕掛けの人形だ。


頭が壊れていく。思考が壊れていく。考えが、纏まらない。同じことが何度も何度も頭の中でリピートしていく。そして、意識も薄らいでいく。


男は、鏡に映る自分の姿を見つめながら、静かに涙を流した。だが、流れる涙もまた、ネジであった。




挿絵(By みてみん)




社会、会社の歯車になるというのは、ある意味自分が自分で無くなることなのだと思っています。


そんな感覚に陥ったことのある諸兄は多いのではないかと思います。



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― 新着の感想 ―
『銀河鉄道999』のエンドとカフカの『変身』を組み合わせたようなシュールさ。 自分は好きです。
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