第二十四章 その4
「ところで、なぜ観音堂はここ法清寺に移されたのかしら? 他の場所ではなくて、ここに移された理由があるの?」
あゆみは、今度は信國の方に体を向けて尋ねた。
「おそらくですが……。私の考えでは、ここが由緒ある寺であったことと、宗助国公の胴塚があるからではないかと」
「宗助国公の胴塚?」
あゆみは、信國を食い入るように見た。
「あゆみ様、胴塚は隣の法清寺の境内にありますので、一緒に参りましょう」
「あゆみ様、どうぞ参ってきて下さい。ここは私どもが見張っておりますので」
大ババ様も大きく頷きながら、扉の方に手を指し示した。
あゆみは観音堂を出ると、右側にある垣根の切れ目となっている道を抜けた。すぐ隣が法清寺の境内になっているのだが、その間には沢山の石仏や仏像が所狭しと置いてある。
あゆみは仏像に手を合わせながら境内に入った。信國の案内される方に歩くと、すぐに左手側に「宗助国公お胴塚」と書かれた標識が目に入った。あゆみは、その前で足を止めた。そこには石を積み囲んだ真ん中に、墓標のような大きな石が建てられいる。
「あゆみ様。ここが胴塚でございます。元寇の時、宗助国公は大将として勇猛果敢に元軍を迎え撃ち、多くの敵を倒しながらも敵は何千何万。最後は敵の矢に倒れ、体は頭部、胴、手足とバラバラに切断されたのです。ここは、そのうちの胴の部分を埋葬し祀ったものです。以前、観音堂があった床谷の丘には、「首塚」があり、ここと首塚の間に「手足塚」がございます。元寇では、助国公だけでなく、元軍と戦った全ての武将。民百姓もみな、それほど壮絶な戦いを強いられたのでございます」
「首塚が床谷の観音堂跡に……。」
そう小さくつぶやくと、あゆみは突然、「信國、わかったわ! 黒の法師の居場所が」と叫び信國の顔をじっと見た。
信國も頷くと、
「おそらく、そうでしょう。黒の法師は床谷の首塚に向かったのだと私も思います。
元寇があった頃は、海岸線は今よりもっと奥にあったと考えると、小茂田地区というよりも、佐須や床屋がある下原地区は壮絶な戦いがあった場所です。多くの武士や民衆のみならず元軍も無残な死をとげた事でしょう。そこには、まだまだ人々の無念や恨みが渦巻いているはず。それが黒の法師が床谷の首塚に行った理由でしょう。
あゆみ様、我々も急ぎ後を追いますか?」
「ん、今どうしたら良いか考えてたの。先にここの観音堂に結界を張るべきか、それとも黒の法師を倒しに行くのが良いのかと。
観音堂に入った時から、私たちを見守って下さる美しい観音様。昔と変わらないお姿でいらっしゃる。元寇の戦いをもよく潜り抜けられて……。やっぱり法師様の結界の力なんだろうね!」
あゆみは感慨深そうにつぶやいた。
「私は、まず観音堂に結界をはり、ここを固めた方が良いかと。そのあとは、阿連の守り人が守ってくれるはずです。あゆみ様、とにかく急ぎましょう!」
二人の後を追って法清寺の境内に来ていた安國が、凛々しい表情で二人の間に割って入った。
「そうだな! 安國。 あゆみ様、私もそう思います」
信國は頼もしくなった安國を見て嬉しそうにそう言った。
あゆみも笑顔で頷き、三人の間に光の風がきらりと吹き抜けた。
しかし、その頃、以前に観音堂があった観音山は不穏な闇に包まれ、これから始まる戦いに備えているかのように黒々とした霧が渦巻いていた。




