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TSUSHIMA 魔魅ブギらんど  作者: わたなべみゆき
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第二十四章 その三

「それより、皆さんは、なぜここに? 阿連(あれ)のうちへ行ったら、部屋の中が荒らされていました。あそこで何が起きたのですか?」

「あゆみ様。私が阿連の海岸で別れて、家へ到着してから間もなくの事でした」

 そう切り出したのは、安國の母の佐枝だった。

「おそらく龍太郎が最初に気づいたのでしょう。外が騒がしくなり、何かが攻めてきたのがわかったので、定國、盛國そして優奈と沙織の四人を隠し部屋に押し込んだ瞬間に、霧をまとった人影がいきなり家の中に入ってきたのです。黒いマントをつけた大男で、凍るような恐ろしい目つきでした。そして、その男は黒い霧を操り、私たちの体を縛り動けなくしました。だんだんと意識が遠のいていき、おそらく、そのままだったら私たちも憑依される所でした」

「それで? そのあとはどうなったのですか?」

「大ババ様が守り人の家に伝わる秘伝の剣を抜かれたのです」

「秘伝の剣……。それは、どんな剣なの?」

 あゆみは、大ババ様と呼ばれる守り人の長の顔をじっと見つめた。

「それは……」

 大ババ様もあゆみを見つめながら、時に軽く目を閉じて語り始めた。

「それは、天と我々、守り人を繋ぐ光の剣でございます。我が一族に伝わる秘伝の剣で、守り人の存続が危うい時にのみ使うよう一三〇〇年前に天仁法師様よりいただいたものなのでございます」

 あゆみは目を丸くして驚いた。

「天仁法師様からいただいた秘伝の剣……。 

 それで、どうやって悪の大魔王を? いえ、おそらくその男は、黒の法師です。一三〇〇年前に天仁法師様が葬った男。法師様が浅藻の塔に入定された時に共に連れて入り、封じ込めたはずの男なのです」

「えっ?」

 その場の空気が一瞬固まったかのように、あゆみに視線が集まった。

あゆみは大ババ様の顔をじっと見て、ゆっくりと頷きながら言った。

「それを今、説明する時間はありませんが、いずれお話致します。

 黒の法師がいつまた襲ってくるかも知れません。今は、光の剣で黒の法師をどのようにして退けたのかを教えて貰えますか?」

「あゆみ様。天仁法師様が、私たち一族に守り人の役目をお与えになった時、白い光の剣をお授けになったそうです。それは、土間の柱に取りつけられた扉の中に収められています。私が知る限りでは、これまで使われたのはただ一度。元寇が押し寄せてきた時のみと聞いています。そして、今回が二度目でございます。

 先ほど、黒の魔物が襲いかかった時、先代に教えられ通りに家の天窓を開け光を当て、法師様より授けられた呪文を唱えると天窓からものすごい光が剣に集まりました。そして剣を抜くと、光の刃が命を得たように脈打ちながら牙をむき、魔物を退ける事が出来ました。

 あの時、私は必死で光の剣を振りかざし、襲ってきた男を取り巻く黒い霧を払いのけました。そうすると男はだんだんと、はっきりとした姿を現わしました。

 なんと、その姿は初めの容姿とは異なり、小さく子どものような男で怯えた目をしていたのです……」

「やはり黒の法師! 天窓が開いていたのは、そういう理由だったのですね。それで、黒の法師は、どこへ逃げたのでしょうか?」

 あゆみは大ババ様の顔をもう一度しっかりと見つめて尋ねた。

「確かに、こちらの方向へ来たはずなのです。おそらく観音堂が狙いだと思い、ここへやって来ましたが、魔者の姿はありませんでした」

 大ババ様は、眉をひそめ目を閉じた。

「そう言えば龍太郎はどうしたの? 一緒じゃなかったの?」

 あゆみは、龍太郎がいないことに気づき守り人に尋ねた。

「あゆみ様、龍太郎は私たちと一緒にここまで来ましたが、小茂田(こもだ)樫根(かしね)に棲む魔魅達に危険を知らせるって言って、どこかへ行ってしまいました」

 佐枝の姉にあたる妙が答えた。

「それなら良かった! 龍太郎ならきっと魔魅達を守ってくれる」

 あゆみは安心した様に答えると、再び大ババ様の方を向き口を開いた

「大ババ様、なぜ阿連に守り人の里があるのでしょう? 天仁法師様が阿連によく来ていたと言うこと?

「あゆみ様は、阿連に日本最古の銀山があったことを知っておられますか?」

「ぎんざん? いいえ、知りません」

「対馬では、天仁法師様が生きておられた時代か、いえ、おそらく、その前から金、銀が掘られていました。

 七〇一年は大宝元年という年号がつけられていますが、この大宝というのは、対馬で採れた金を朝廷に献上したことを祝ってつけられた年号でございます。

 歴史上、一般的には佐須の銀山が日本最古の鉱山とされています。

『日本書紀』という大昔の書物によると、天武天皇三年(六七四年)に対馬国の国司であった忍海造(おしうみのみやつこ)大国(おおくに)が対馬から産出した銀を朝廷に献上したという記述があります。これが書物に残る日本における銀山開発の最も古い記録とされています。

 それから対馬の金銀は朝廷への貢物として差し出すようになっていきました。

 しかし、実はその前から阿連では銀の採掘が行われていたのです。実際、今でも、その抗の跡が数か所、深い森の中に眠っています。

 そして、浅藻(あざも)。法師様が生前は修行場とされ、入定(にゅうじょう)された後は「おそろしどころ」とされた所も大昔、金が採掘されておったのでございます。

 しかし金や銀など貴重な金属が多く採れることが知られると、大勢の人が集まり、奪い合い、対馬は荒れ果てた島になってしまうでしょう。

 都の帝が病気になり、天仁法師様が都に呼ばれ帝の病気をお癒やしになられた時、様々な褒美をもらわれました。しかしそれだけではなく、法師様は対馬の金銀を貢がせることを止めて欲しいと願い出られたのです。

 法師様は、噂を聞きつけて、金銀目当てに盗掘にやってくる者達が対馬を荒らすことを恐れておられました。欲にくらんだ者達から、神々が現れる阿連の地を、そして浅藻の地、対馬全体を守るために、阿連に守り人の里をお作りになられた。私達は、その血を受け継ぐ者達なのです。

「そうだったのですね。あなた達も日神の一族の末裔ですか……?」

 あゆみの中に淡い期待に似た気持ちが湧いた。

 そんなあゆみの気持ちを察知したのか、大ババ様はあゆみをじっと見ると、すぐに目を伏せ首を横に振った。

「いえ、滅相もございません。私共が日神の末裔などとは恐れ多いことでございます。私共はただの人間にございます。ただ様々な秘術を授けて貰いました」

 大ババ様は頭を低くしてお辞儀をした。

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