第二十二章 その二
えーん、ええーん。
鳴き声が近くに聞こえる。
「やっぱり、洞門の中にいるわね」
佐枝が洞門を指さして言った。
「あの岩の真ん中にある穴が洞門なの?」
「そうです、あゆみ様」
佐枝はにっこりとあゆみに笑いかけた。
「あ……」
「どうかなさいましたか、あゆみ様」
佐枝があゆみの顔を覗き込むように優しく微笑みかける。
「いえ、佐枝さんによく似た人を知ってて……」
「あゆみ様。この洞門は、阿連の人たちの安全を守るために掘られた手彫りのトンネルなのです」
急に信國が声をかけたので、あゆみはハッと我に返った。
「阿連は北も南も東も険しい山に囲まれ、西側はご覧のように海岸が続いています。
今から行く隣の小茂田は、昔は鉱山が近くにあったり、漁港も栄えて、とても賑わっていたそうです。小茂田浜の神社でお祭りが開かれると、それはそれは沢山の出店が出て、盛大なお祭りだった様です。阿連はお隣であるにも関わらず、昭和の初めまで小茂田への陸路がなく、潮が引いた時にこの海岸線を歩いて行くしかありませんでした。しかし、ご覧のように、この大きな岩場の所は狭く危険な場所でした。
それで、里に住むある一人の男性がこの岩場にトンネルを作ると言って掘りだしたのです。初めは、そんな物ができるはずないと相手にされなかったけれど、来る日も来る日も掘り続けていたら、一人、二人と協力してくれる人が現れ、最後は多くの人が協力して完成した洞門なんです」
「信國、阿連のこと詳しいんだね!」
あゆみは不思議そうな顔で見つめた。
「だって、俺たちの母上は阿連の生まれだから」
久しぶりに会った盛國が割って入るようにあゆみの側に来て言うと、
「やっぱりそうなんだね。そうだと思ってた」
あゆみは佐枝の顔をまぶしそうに見つめた。
ええーん、ええん。
更に大きなった鳴き声が響いてきた。
「ククク、ククク」
鳴き声と一緒に誰かの笑い声も聞こえる。
「あれ? あの笑い声は?」
「あれは、笑びこの声。笑びこが俺たちに知らせてくれたんだ。阿連がおかしいって!」
あゆみの問いに盛國が答えた。
「そうだったのか! 詳しい話は後で聞こう。今は急いで洞門の中へ!」
信國の言葉に、みんな急いで洞門めざして駆け込んだ。
「あっ!」
「モッコ! 笑びこも、ここにいたのか!」
「モッコが泣いていたのか! どうしたんだ?」
洞窟の奥で、モッコと呼ばれる魔魅が震えて泣いていた。モッコは目が青く全身が茶色の生き物で、髪の毛の色が半分は濃い茶色で半分は黄色。そして角のように二つ立っていた。
「ガンゴウが、ガンゴウが……」
モッコはうなだれるように、肩を落としている。泣きながら言うので言葉がよく聞き取れない。
「ガンゴウがどうしたんだ?」
信國がガンゴウの側に寄り背中をなでながら尋ねた。
「ガンゴウが悪の意大魔王の手下にされた」
「大魔王の手下に……!? 信國、急いで阿連の里へ行きましょう」
信國の後ろにいたあゆみは、何かを決意したような顔で信國と安國に視線を送った。




