第二十一章 そのニ
「山童! いつの間に来たの?」
「さっき着いて声かけたんだけどさ~。みんな真剣に話してて気が付かないから、座って聞いてたんだよー」
「あら、そうだったの。ごめんね」
あゆみは目を閉じ、顔の前で手を合わせた。
「いいんだ、いいんだ」
「じゃあ、山童。さっきの続きを話してくれる!」
「わかりました! さっき信國殿が話をしたように、七五〇年前に小茂田には元の軍船がたーくさんやってきて、対馬の人々はひどい目に遇ったんだ。実はその時に、朝鮮半島の高麗の人たちも、脅されて船に乗って来てたんだよ。そして、その船には人間だけでなく、朝鮮に棲む山の精霊も一緒に乗って来たのさ」
「え! 朝鮮の山の精霊?」
「そうだよぉ。と言うのも、元という国の、めちゃくちゃ強い軍団は対馬を襲う前に、朝鮮半島の国を支配していたらしいのさ。そうして、山からたくさんの木を切り出して、対馬を襲う船を作らせたんだよ。山の精霊たちは、木が無くなってしまった山では暮らしていけなくって一緒に船に乗って対馬にやって来たんだよぉ」
「そうだったの! それでその精は闇の魔魅とどんな関係があるの?」
「それそれ! 朝鮮の精霊は名前をモッコって言うんだけどね、それは蒙古っていう意味なんだ。大陸から攻めてきた元の国のことを蒙古っていうらしいんだ。元の大軍に無残な仕打ちをされた対馬の人々は、船に乗ってやって来た朝鮮の精霊を、奴らの仲間だと思って、モッコ、モッコって恐れ怖がったのさ。そりゃあ、そうだよな! 対馬の人たちは、そりゃあ、ひどい目にあったからなぁ。
それでモッコは人がいる所には棲めず、小茂田の山奥や隣の阿連の山奥で隠れるように暮らしていたんだ」
「そう……。モッコって、以前に確か……、そうだ! 白ババに聞いたことがある名前だ。それで、モッコってどんな精霊なの?」
「モッコは優しい精霊だよ! もう七五〇年も対馬に棲んでるから、対馬の魔魅って言えると思うんだけどさ! モッコは対馬の山を守るためにそれは良く働いてくれたし、小茂田や阿連の人たちのためにも良くやってくれたり、阿連は神様が集まって来るところだから、神事の手伝いもしてくれるんだ」
(阿連かぁ、小夜さんたちの生まれた所だ。気になる場所……)
あゆみは小さく頷き何か考えてる風であったが、山童は、おかまいなしに続けた。
「だけど、やっぱり、人間からは悪いことをしたらモッコが来るよ! モッコが来るよって恐れられているのさ。モッコはそれが辛くて、ずっと傷ついてきたからな~。
だけど、モッコだけじゃないんだ。もう一人、暗い気持ちで生きてる魔魅がいる」
「え! 他にもいるの?」
「うん。ガンゴウと呼ばれる魔魅。やっぱり、元寇の時にやってきた中国の精霊だよ」
「ガンゴウ? ああ、そうだ! 白ババがモッコとガンゴウって言ってた。変わった名前だから覚えてたんだ」
「対馬の民が元寇のことを、そう言ってたのさ。ガンゴウ達は元の軍船が何をしに日本に来たかも知らなかった。ただ遠くに国へ言ってみたいという気持ちで船に乗ったんだ。そうしたら、元の大軍は対馬に上陸をして、島民をむごたらしく殺したり、食糧を奪い火をつけたり……。その光景が恐ろしく逃げ出したんだ。そして、この島に取り残されたのさ」
「そうだったの……」
「そして、ずっとガンゴウ、ガンゴウと恐れられ、モッコと同じで隠れるように暮らしてきたのさ」、
「ふーん、それで闇の魔魅たちのようにひっそりと暮らして来たんだね。悲しみが癒されないままに……」
しばらく、うつむきがちに考え込んでいたあゆみは、突然はっとした顔になると、いきなり立ち上がった。
「信國、安国、モッコとガンゴウが危ない! 今すぐ小茂田に行こう!」
二人は驚いた顔であゆみを見たが、直ぐに片膝を突き頭を下げて「はっ」と歯切れの良い返事を返した。




