第二十一章 その一
「しょうたん、大丈夫! そちらに直ぐに行くね」
あゆみは笑顔を見せて、立ち上がった。
「あゆみ様、信國殿が次の観音堂に行く前にお話したいことがあるようです」
「え、信國が?」
あゆみは涙をぬぐいながら、あんじょと共に皆がいる隣の部屋に戻った。。
あゆみの様子に安國は心配そうに目を配った。
「あゆみ様、母君になにかありましたか?」
信國の問いに、あゆみは頭を左右にふると笑顔を作った。
「悲しいことに何も変化はないわ。それより、信國の話ってなに?」
「はい、曽の観音堂の側で闇の魔魅たちとの事を振り返っておりましたら、これから行く佐須の観音堂の周辺で以前に起きた話を思い出したのです。佐須の先に小茂田という場所がありますが知っておられますか?」
「こもだ? ううん、知らない」
「ちょうどいい。安國もしっかり聞いておきなさい」
信國は安國に視線を送ると、あんじょ、しょうたん、あゆみの顔を交互に見ながら話し始めた。
「これは、対馬に住む島民にとっても、われら河野家にとっても、これまでの歴史の中で非常に厳しい大苦難であったと伝えられております」
「え、その小茂田で何がおきたの?」
「小茂田という所は、厳原から西側に向かって内山と同じくらいの時間がかかる場所にございます。内山は南に下り、山中にありますが、小茂田は厳原から西側に下った海際にある集落です。
今から750年前、その小茂田の先に見える西側の海に、元という国の大船団が現れました。そして、その船団から元の大群が小茂田浜に押し寄せ、対馬の民を殺し食糧を奪い、家には火をつけられ、女性や子どもは連れ去られました」
「えー、そんな恐ろしい事が起きたの……。それは悪の大魔王ではなく、人間の仕業なの」
「おそらく悪の大魔王にそそのかされ、憑依された者達の仕業だと思われます。当時、元の国は〝草原の悪魔〟と言われ恐れられておったようですから。彼らにおどされ、隣の国の朝鮮の人々も無理やり連れてこられていたようです」
「われら修験者も闘い、たくさん殺されましたと聞いております。歴史には全く残っておりませんが。われらはこの元の国の使いが来た時からずっと西側の集落を守るために、魔魅の力もかりながら、対馬の民の逃げ場所を用意しておったのです。歴史ではこの侵略を元寇と読んでおりますが……」
「元寇……。人間同志が殺しあうなんて、恐ろしい事が起きたんだね。
ところで信國、さっき闇の魔魅の話で元寇を思い出したって言ってたけど、どんな関係があるの?」
「それは魔魅である俺らから話すよ!」
「えっ!」
その声にみんな驚いて振り返った。




