第二十章 その三
「あゆみ様……」
一瞬の間を置いて、あんじょが続けた。
「あゆみ様、母君の顔を見てあげて下さい」
あゆみはコクンと小さく頷くと、立ち上がり奥の部屋に向かった。
襖を開け、母が眠る布団の側に座った。
「あんしょ、かあさまに何も変わりはない?」
美しい母の顔を見ながらあんじょに聞いた。
「あゆみ様、特に大きな変化はございません。時に痘が浮かび上がったり消えたりすることはありますが……」
あんじょが、そう話している時だった。
「あゆみ……」
「かあさま! かあさま! あんじょ、かあさまの意識が戻った!」
あゆみの名を呼ぶ母の顔をさすると、あゆみが泣きながら、あんじょに向かって叫んだ。
あんじょは目を伏せ、頭を横に振りながら、気の毒そうに答えた。
「たまに、こうやって、あゆみ様のお名前を口にはされますが、全く意識はお戻りにはなりません。
「母君はいったい、どこを彷徨っておられるのか……」
あんじょは涙ぐみながら、大きな瞳をうるうるとさせた。
「かあさま……。きっと目には見えない世界で、悪の力と闘ってくれてるんだと思う」
あゆみは、涙を拭いながら母の顔を見つめて呟いた。
あんじょも、あゆみの言葉に何度も頷いた。
「かあさま。悪の大魔王はあゆみが必ず倒すから。悪の大魔王をこの島から追い出すから。それまで、かあさまも頑張ってね!」
あんじょは、あゆみの言葉にまた涙ぐむのであった。
その時、いきなり襖の戸が開いた。
「あゆみ様、母君に何かありましたか?」
隣の部屋から、ぬっとしょうたんが顔をのぞかせた。




