第二十章 その一
龍太郎に乗って山口に戻った二人は、あゆみの家の玄関の前に立った。
「ここがあゆみの家かぁ」
「拓郎、あっ、安國は初めてだよね! どうぞ」
そう言って、あゆみは玄関の戸をガラガラと開けると、手を出して安國に先に入るよう促した。
「あ、ありがとう。なんかドキドキすんなぁ。あゆみんちに来たの、俺が初めてかな? 誰も来た事ないよね」
「ううん、はるかちゃんは来たことがあるよ。あ、担任の近藤先生も」
「え、はるかは来たことがあるのか。しかも近藤先生も! 俺だけ仲間はずれじゃん」
安國はわざと、すねたような顔をした。
「はるかちゃんは、私が休んでた時に授業のノートを持って来てくれたの」
「へぇ、いいとこあるじゃん、あいつ」
その時、奥の部屋の襖が急に開いた。
「お話が盛り上がってらっしゃるようですね!」
あんじょがぬっと現れたので、安國は驚いて後ずさりした。
「あんじょ~、久しぶり!」
あゆみは嬉しそうにあんじょに抱きついた。
「おやおや、あゆみ様。しばらく見ないうちに大きく成長されましたね~」
もともと小さいあんじょは、顔をあげるようにしてあゆみを見て言った。
「そうなの! かあさまや皆なの分まで頑張らないと守れないからね~、この島を」
あんじょの頭をなでながら笑ったあゆみを安國がまぶしそうに見ていた。
「おや、この方は?」
あんじょは安國に気が付き、あゆみと安國の両方の顔を見ながら言った。
「あ、この方は信國の一番弟子の安國殿よ」
「あ~、信國様の! それはそれは。どうぞ奥へお入り下さい。信國様もお待ちでございます」
廊下の突き当りの部屋の襖を開けると、そこには信國の他に魔魅のしょうたんがいた。
「おかえりなさいませ、あゆみ様。お久しゅうございます」
しょうたんは大きな口を開けて嬉しそうに笑った。
「安國。ご苦労であった。何事もなかったか?」
信國はいつものように冷静だ。
「え、あ、はい! 特に何も」
信國にそう言われて、ドキッとした安國は少し焦った様子で答えた。
「ん? なんか様子が可笑しいな。なにかあったのか?」
「いえ。何もありません」
「いや、何か隠してる! あゆみ様、何も変わったことはありませんでしたか?」
信國はあゆみの方を向いて、きりっとした表情で尋ねた。
「ふふ、あったわよ!」
「えっ!?」
部屋にいた全員がその言葉に驚いたようにあゆみの方に視線を向けた。




