第十九章 その一
次の日の朝早く、あゆみが小夜の家を出ると、外にはもう信國たちが待っていた。
「信國、おはよう。夕べはどこで寝たのかしら! よく眠れた?」
「はい、昨夜は、いたずら天狗と会えました。借りていた飛び傘を返すこともできました」
「え、いたずら天狗が来てたの! 飛び傘、帰っちゃったのね。そっかー。寂しくなったね」
「きっと、またどこかでお会いできますよ!」
「そうよね! じゃ、信國、私、今から龍太郎に乗って豆酘崎に行ってくる」
信國は深くうなずくと、安國に向かって言った。
「安國、あゆみ様と一緒に豆酘崎へ行きなさい」
「へ?」
「なんだ、その顔は! あゆみ様をお守りするんだ」
「はっ、かしこまりました」
安國は戸惑いながらも信國に頭を下げ、すぐに答えた。
ヒューウィ、ヒューウィ、ヒューウィ。
息の長い口笛を三度吹き、信國は龍太郎を呼んだ。
二人を龍太郎の乗せようとした時、安國に向かって静かに言った。
「安國が前に乗り、あゆみ様をお守りしなさい」
「はっ」
安國は片膝をつき、頭を下げた。
(拓郎の声にそっくり……)
あゆみは安國をまじまじと見つめながらそう思った。
龍太郎に乗った二人は豆酘崎に向かった。
「あ、山口が見える! ほら、あそこ。山口には私の友達で拓郎っていう男の子が住んでるの」
あゆみは、前に乗っている安國に向かって、わざと大きな声で言ってみた。
「はぁ、そうなんですねー」
安國の興味なさそうな返事。あゆみは少し苛ついた顔をして安國に背中を見た。
間もなくして豆酘崎に到着した。
「龍太郎、ありがとう! 白ババと話が済むまで近くで遊んでていいわよ」
龍太郎はニッと笑うと、直ぐに舞い上がった。
「私はここでお待ちしますので、あゆみ様は白ババとお話してきてください」
安國は頭をさげながら、あゆみに言った。
「安國も私と一緒に来て!」
あゆみは安國の顔をじっとみた。
「えっ、私も一緒にですか!?」
「そうだよ! 信國にも言われたでしょ! あゆみ様をお守りしなさいと」
あゆみは試すような顔で笑って言った。
「あ、まぁ。そうですが……」
ふふふ。
あゆみは安國に聞こえないくらい小さな声で笑うと、咳払いをして口を開いた。
「ねぇ、安國は白ババに会ったことはあるの?」
「いえ、ありません」
「え? 白ババに会ったことないの! ホントに?」
「はい」
「じゃあさぁ、覚悟しといたほうがいいわよ」
「えっ!? 何を?」
安國はゆっくりとあゆみの顔を見た。




