第十七章 その一
竹林の中に足を踏み入れた三人は驚いた。
そこは一見なんの変哲もない竹林であるのに異様な空気に満ちていた。
あゆみはキョロキョロとあたりを見まわした。
竹林の中はシーンとしている。
「たしか……、あの人影は」
あゆみがそうつぶやいた時だった。
「あれ!? あゆみ様に信國様、こんなところで何してるんだ~?」
三人は、一斉に声の聞こえる方に顔を向けた。
「やまわろう!! あなたこそここで何してるの?」
「え、おいら? おいらは遊んでるんだよ」
「遊んでるって、誰と?」
あゆみは、あたりを見まわしながら聞いた。
「誰って! あゆみ様、見えないんですか? 魔魅たちの姿が」
「魔魅!? やまわろうの他に魔魅がいるの?」
「あゆみ様、よーく目を凝らして見てくださいよ。あゆみ様には見えるはずだ」
あゆみは注意深くじっくりと竹林の中を見た。そして、竹林の中から竹の笹が重なりあう空を見上げた時に「あっ」と小さく声をもらした。
「やまわろう……。どういうこと」
「やっと、見えてきました? 魔魅たちの姿が」
「やまわろう、ここはどうなっているの。この魔魅たちは私の知っている魔魅とは違う」
「あゆみ様。そりゃあ、そうでしょう! ここの魔魅達はここでしか生きられないから、あゆみ様は見たことがないはずだ。だから、おいらが時々遊びに来てるってこと!」
あゆみは、この側にある観音堂の階段を登る時に、不思議な感情に襲われたことを思い出した。
「ねぇ、やまわろう。ここの魔魅達のことを教えて」
「もっちろんだよ! ほらほら、向こうの森からもあゆみ様の顔を見にやってきた」
三人は目を見開いた。竹林の奥にある森の方から、今までに見たことのない生き物たちがひょこひょこと近づいてくるのだ。
「や、やまわろう! この子ホントに魔魅なの!?」
「はっはっはっはははは……。あゆみ様、なんていう顔してんだ~」
やまわろうは愉快そうに腹を抱えて笑い転げた。
ケタケタケタ
あゆみ達を取り囲んだ魔魅たちも、やまわろうにつられて笑った。
「こんにちは。急にやってきてごめんね」
あゆみ達を見る竹林の精の目がとても冷たく感じたので、あゆみは頭を下げて謝った。
「おーい、みんな。この方はあゆみ様といって、天仁法師さまの末裔になるお方だ。おいらたちのために悪い奴らと戦ってくれてる人だから大丈夫!」
やまわろうがそう言うと、竹林の笹がさやさやと嬉しそうに揺れた。
「あゆみ様、ここにいる魔魅たちは闇の魔魅と言われて、長い間ずっとここで生きてきた魔魅達なんだ。ここで生きてきたと言うよりも、ここでしか生きれなかったと言った方が正しいな」
「え? 闇の魔魅って、どういうこと?」
あゆみは驚いて、やまわろうに詰め寄るように近づいた。




