第十六章 その三
「な、なんだよ、二人とも! 俺もそう感じたから、そう言っただけだ」
「そう感じたって、どう感じたの?」
あゆみは安國を少し見おろすようにして目をみつめた。それは、あゆみがここ最近で、かなり大きくなっていたからであり、その身長は信國にもうすぐ追いつくほどだった。
信國も少し前から、あゆみが急に大きくなっていることが気になってはいたのだが、そのことには触れずにいた。
「どうって……。なんかこう古めかしさが無いというか、綺麗に整えられていて、今も誰かがいつも参っているお寺のような感じって言えばいいのかな」
「そう! まだまだ使われている感じ。安國が感じた通りだと私も思う」
あゆみは嬉しそうに安國の両手を握って、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「あゆみ様……。子供みたいだ」
安國がぽつりとつぶやいた。
「だって、私はまだ子供だもん!」
あゆみはぽかんとしている安國に向かってにこりと笑って言葉を投げた。
「え? こんなに大きいのに、子どもなんですか……」
「そうよ! あゆみはまだ子どもだったんだけど、急に大きくなり始めたの。理由がわからないけど……」
あゆみは、しゅんとなって下を向いた。
「大きくなっても小さくなってもあゆみ様はあゆみ様ですよ」
安國はあゆみの肩をポンと軽く叩いた。
「これ、安國! 気軽にあゆみ様に触れるでない」
珍しく信國が厳しい顔でおこった。
「信國、いいの、いいの、気にしないで。私、嬉しかった! 安國がああ言ってくれて」
あゆみは笑顔になって信國をなだめた。
「では、下に参りましょう」
信國の言葉で三人は観音堂を出て階段をおり始めた。
あゆみは、観音堂を出た時にある感覚が体に広がるのを感じた。それは修林寺の横を通って観音堂へ向かった時に感じたものと同じものであった。さっき信國達には言わなかったが、この観音堂の近くに、何かもの悲しい、なにか暗い気が漂っているような気を感じる。
〝この感じは何だろう……〟
三人は無言で石の階段をおりた。シーンと静まった修林寺と観音堂には、木々でせわしく鳴くセミの声だけが響く。その時、どこからか「ミシッ、ミシッ」と聞きなれない音がした。その後には、パキパキッという竹が割れる音が聞こえた。
「何の音?」
あゆみは信國の方を向くと尋ねた。
「右手の森の中から聞こえてくるようです。竹林があるので竹が乾燥して割れているのでは音ではないでしょうか?」
「う―ん、それとは違うような……」
その時、竹林の中で誰かが横切る影が見えた。
「あっ、あれは!?」
三人は顔を見合わせると、急いで階段を駆け下り森の方へと走った。




