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魔魅ブギらんど  作者: わたなべみゆき
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第二章 そのニ

 島中の魔魅たちが、あゆみの家によばれた。あゆみは初めて会う魔魅もいて、数の多さに戸惑っていた。

 部屋中に漂う霊気。

 島に棲むいろいろな魔魅たちが集まっている。

「母君! 母君! さゆり様」

「母君! おいたわしや…」

 魔魅たちは、家に入ると口々の母の名を呼び、母の眠る布団の周りに集まり、祈るように手を合わせた。

 1つの部屋では足りず、家の中じゅうに魔魅達が座ったり、立ったり、宙を浮いたりしている。


「あんじょ、これで全員なの?」

「姫、いや、これからはあゆみ様とお呼び致します。

 全員はとてもとても。山わろうやりょうげ、かおーら、山気などは山や川や海にどれほどでもおります。今日は魔魅のリーダーだけを呼んでおります」

「へー。それなのに、こんなにいるんだね。この島の人間の数より多いんじゃない!」

「もともと、人間の方があとから来ましたからね。自然の精霊たちは、この島ができた時からおります」

「そっかー。先輩なんだね。ふふ」

 あゆみは笑うと、集まった魔魅たちに向かって話し始めた。

「ねぇ、みんな! 私はあゆみ。法師様の塚守りの娘よ。今日は集まってくれてありがとう。

 木太郎も山気も元気になってよかったわ。

 葉太郎も回復したのね!

 みんなも知っての通り、この島に異変が起きてるの。みんなが、今までこの島を守って来てくれたから、ずっと平和に暮らせてたんだけど、数日前に法師様の塚が荒らされてた。  

 そして黒い霧に、森の仲間たちが襲われ、憑依されてしまったものもいると聞いたわ。

 それで、かあさまが北の塚で祈祷して、なんとか龍良山とその里に結界をはってくれたおかげで、今は平穏を保ってる。

 でも、かあさまはまた黒の法師はやってくると言ってた。黒の魔力のパワーが増しているとも。

 そして、みんなも見てのとおり、祈祷のあと、かあさまは、ああやってずっと眠ったまま目を覚まさないの。

だから、残った私たちで力を合わせて、黒い法師と戦わなくてはいけない。この島を守るために」

「話はわかりましたが、あゆみさまはまだ子どもじゃ。戦う力がありますかな」

 髪が黄色でおどけた顔をしたいたずら天狗が落ち着いた声で言った。

「そこなの。私は自分でもまだよくこの家のことも森の事もわからない。

 私にどんな力があるのかもわかんない。

 だから、みんなに集まってもらったの」

「急がねばなるまい。魔魅たちは、龍良山とその里だけに生きているわけではない。

島の北部や中央にいる魔魅たちがあぶない」

 これまで、捨てられた子ども達に乳を飲ませ助けてきた、豆酘崎の海岸に棲む白ババが深くうなづきながらつぶやいた。

「それにじゃ」


「それに?」

 白ババの言葉を、そこにいる魔魅たち全員が繰り返した。

「あゆみ様は、これまでの塚守りの中でも霊力が最も強いと感じる。この方なら、法師様の力を蘇らせてくれるかもしれない」

「おお、白ババ、それは本当かい? 白ババがそう言うなら安心だ」

「よかった、よかった」

「あゆみ様、ついて参ります」

 急に、部屋の中に安堵感が広がり、明るい雰囲気に変わった。


「ちょ、ちょっと待って! 私にそんな霊力なんてないわ! かあさまに何も教えてもらってないし。

 だから、あなた達の霊力を貸してもらいたくて、今日集まってもらったのよ!」

「あゆみさま、何も心配ありません。白ババが、ああ言うんだから大丈夫!」

 ひと声おらびが、がははと笑いながらそう言った。

 ゴリラのような体型。大きく開いた口。朱くて大きな目。ぱっと見は怖い顔だが、陽気でやさしい魔魅だ。

「ちょっとー。ひと声おらび! そんな簡単に言わないでよ」

「がははは。大丈夫、大丈夫」

「もう、大丈夫じゃないって! 私は人間なんだから……。

 ……」

 誰も何も答えない。

「もしかして、私も魔魅? 

 ねぇ、白ババ、私も魔魅なの? ねぇ、白ババ。答えて」

白ババは滑るようにすーっとあゆみの前にいくと、

「あゆみ様は魔魅ではありません」

「じゃあ、人間なの?」

「人間です」

「よかったー! 私、やっぱり人間なのね」

「ただ……」

「ただ? ただ、なんなの?」

「法師様の力を宿した人間……。いや、ただの人間とも違う。神に最も近いお方じゃ」

「かみー?

 ちょっと、白ババ、冗談はやめてー。きゃははは」

 あゆみはおなかを抱えて笑った。

 家全体がシーンとしている。あゆみの笑い声だけが響いている。

 その時、玄関の戸をたたく音が聞こえた。

「こんにちはー。天野さん。いらっしゃいますか? こんにちわー」

 笑っていたあゆみはぎょっとした顔をしたまま、固まってしまった。

「え、だれ?」

 どんどん、どんどん。

 また戸を叩く音がする。

「こんにちは。内山小学校の近藤です」

 あゆみは、あっという顔した。

「みんな、静かにしておいてね。

 あんじょにしょうたん。玄関のところのふすまだけ入れて!」

「かしこまりました!」

 あゆみは、戸が入れられたのを確かめて、玄関の戸をあけた。

 戸を開けると、小学校の担任の近藤先生がいた。

「先生、どうしたの?」

「お、天野! 大丈夫か?」

「先生! こんな山奥にわざわざ来てくれたの? 大丈夫だけど、しばらく学校いけないかも」

 ジャージ姿の近藤先生は、新任で初めてこの島にやってきた。

 黒ぶちの四角いメガネ。髪はあまり整えてない感じの長髪。目の奥には優しい瞳が笑っている。 

「学校にいけないってどういうことだ?」

「おかあさんの具合が良くないの」

「そうなのか……。誰かに相談したか?」

「う…ん。相談はしてる! 大丈夫だから。ごめん、先生。今、おかあさんのお世話で忙しいから。

 元気になったら、また学校にいくからね、心配しないで」

「わかった。またくるから。

 天野、がんばれよ!」

 あゆみは、先生の後ろ姿を見送ると、玄関の鍵をしめた。

「さぁ、今からが勝負だわ」

 さっき入れたふすまをはずすと、

「とにかく、私が誰なのか、どうしてこの家に生まれたのか、教えてちょうだい!」

 あゆみは畳の上にあぐらをかいて座った。

「あゆみ様が生まれた日は、朝から本当にすがすがしく、朝日が昇ると同時に、あゆみ様は、お生まれになりました」

 いつも、あゆみの母のそばにいたあんじょが懐かしそうに言った。

「そうだ! あゆみ様は生まれた時、朝日に輝くようにまぶしかった。わしがとりあげたんじゃ」

 白ババが大きくうなずきながらそう言った。

「わしは毎回、塚守りの姫を取り上げてきた。そして、あゆみ様は特にわしになついていて、小さいころは毎日、ここに通ったもんじゃ」

「ふーん。ところで、うちにはなんで、とうさまがいないの? かあさまに聞いても、もう少し大人になったら話そうねって、なにも教えてくれない」 

「塚守りの姫は十三歳になった日に、全てを話すのがこの家のきまりなんじゃ。

 あゆみ様のとうさまはお日様だよ」

「おひさまー⁉ なにそれ? 神話の世界じゃないんだから、そんなことあるわけないじゃない」

「その神話が続いている家なんじゃ」

 白ババがさとすように言った。

 あゆみは大きな目を見開いたまま動けずにいた。

「あゆみ様。もうあなたもお気づきのはず。

自分に特殊な能力があることを。本当は少しずつ時間をかけて伝えていくべきなのでしょうが、黒い法師がいつ襲ってくるかもしれないこの時ですから。

 どうぞ気をしっかりと持って聞いてください」

 あゆみは大きく深呼吸をすると、あんじょの顔をみて、笑って言った。

「わかった! 今はとにかく黒の法師をやっつけることが先ね! 私に力があるのなら何だってやる!」

「では、いつまでも魔魅達がここにいるのはよくない。

 みんなそれぞれ自分の棲みかにかえって、そこを守るんだ。

 法師様にならったお経は覚えておるか!」

 しょうたんが左手にもったかがり火をもちあげた。

「もちろんでございます。毎朝毎晩唱えております」

 龍良山の使い、龍太郎が目を赤々と輝かせた。

 龍太郎がお経を唱え始めると、みんなも口々に唱え始めた。

「天致知空即命始土即母乳如……」

「ちょっと、ちょっと誰か聞いてるかもしれないからそこまで! みんなはおうちに帰って。今日は集まってくれてありがとう。これからきっと苦しい闘いになるかもしれない。

 だけど、みんなあきらめないで。みんなの力を合わせたら大丈夫! 

 黒の法師がどんな奴か知らないけど、きっと倒せるわ、みんな力をかしてちょうだいね」

「かしこまりました」

「もちろんです! あゆみさま」

 魔魅たちはあゆみのまわりに集まって、あゆみの手をとったり、はげますように肩をだいたりした

 あゆみは、魔魅たちを見送ると、家に残ったあんじょとしょうたん、龍太郎に向かって言った。

「まずはしょうたん。しょうたんは、法師様の塚を守る大切な役目があるから、今すぐ帰って、しっかり守ってて頂戴。

 なにかあったら龍太郎や葉太郎に使いを出してね」

「あゆみ様、かしこまりました」

 しょうたんは、龍太郎の背中にのって、龍良山の法師の墓でもある塚に帰っていった。

 法師様が眠る龍良山の南の塚から、法師の母が眠る北の塚までのその一帯は、昔から「おそろしどころ」と言われ、いったん入った者は二度と生きて出られないという言い伝えがあり、誰も近寄らない場所である。

 あゆみの家は、内山と呼ばれる地域で、その森の奥の方にある。あゆみの家の山を奥の方に上ると、北の塚がある。

 そこは、大きな石が積まれた塔で、法師様の母と代々受け継がれる塚守りの母の墓でもあった。両方の墓には結界がはられ、魔物が塚を荒らさないように守られてきた。

 なぜ塚があるのか。なぜそこを守る必要があったのか。

 こののち、黒の法師の出現によって明らかになっていくのである。

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