第十六章 その二
「では、参ろう!」
あゆみは急にきりっとした表情になり口調も逞しくなった。
「はっ」
修験者の末裔の二人は、片膝をつき頭を下げた。
三人は修林寺の門をくぐり綺麗に整えられた庭に足を踏み入れた。門をくぐると目の前に本堂があり、その前に庭が広がっていた。
「よく手入れが行き届いている」
信國があたりを見回しながらつぶやくと左側の方を手で示した。
「あゆみ様、観音堂はこちらです」
信國が指さした方向は本堂の左脇で、そこには鳥居が建っていた。
「お寺の側に鳥居がある! だけど昔はこれが普通だったんだよね。この光景にもだいぶ慣れてきたけど……」
そう言いながら、鳥居の先にある階段をのぼり始めた。
あゆみは左側のうっそうとした森を見ながら歩いた。森の手前には竹林があったが、奥まった場所で少し薄暗い感じがした。森の方からはセミが必死に鳴く声が聞こえていた。
あゆみは視線を観音堂に向けるとぽつりとつぶやいた。
「階段も整えられてて歩きやすいね」
石の階段は補修のためか、ところどころがコンクリートで固められている。階段は真ん中の手すりを挟み、右側と左側に分けられている。
四十五段の階段を登りつめると観音堂があった。
「あゆみ様、お入り下さい」
あゆみは中に入るとすぐに部屋の中を見まわした。
「やっぱり、ここの観音堂だけ違う感じ……」
そう言いながら、格子の向こうに見える観音様に目をやった。
「ああ、一三〇〇年前に朽木で見た観音様だ。あの時は朽木にあったんだよね。だいぶ色が褪せて古くはなっているけど、やっぱり綺麗だわ」
「せ、せんさんびゃく年前?」
驚いた顔で安國があゆみを見た。
そんな安國を見て信國はふっと笑うと、あゆみに語りかけた。
「今でも曽の観音像は、虹色の光輪を持つ美しい観音様として人気がありますよ」
須弥壇の前に三人は並ぶと、格子の向こうに収められている観音様を感慨深げに見つめた。
「ここの観音堂は結界を張り直す必要もないように感じるけれど、念のために新たに張っておきましょう」
あゆみはそう切り出すと、観音像の前に用意されている分厚い座布団に座り、お経の用意をした。
ロウソクに火をつけ、線香を焚く。いつものように祈祷を行った。
あゆみの側にいる安國は、共にお経を唱え印を結んだ。あゆみは安國に何か強いエネルギーを感じた。定國や盛國とは違う、なにかこう溢れ出る勢いや逞しさのようなものを。
線香の煙が立ちのぼり、お経の声に気持ちが高揚した。木魚の音、鐘の音があゆみの中に眠る光のエネルギーを呼び覚まし四方八方に渦巻いた。そのエネルギーは観音堂を突き抜け、観音堂は輝く球体の中に包まれた。
結界を張り終えたあと、あゆみは静かに目を開いた。
「ふ~。結界は張り終えました。やはりこの観音堂には、すでに結界はしっかりと張られていた。しかもここは全てに他の観音堂と違う新しさを感じる。
天仁法師様が張られた結界のあと、いつの時代かはわからないけど、この観音堂に更なる結界を張ったお方がいらっしゃるはず」
「俺もそう感じた」
「え?」
二人の視線が安國に注目した。




