第十六章 その一
あゆみと信國が曽の観音堂がある修林寺の前に到着すると、盛國によく似た恰好の男の子が龍太郎と共に居た。
「おお、もう着いていたか! 早かったな」
信國が男の子に向かって声をかけた。
「あれ、盛國だけ帰ってきたの?」
あゆみが嬉しそうに近づくと、信國があわてて言った。
「あゆみ様、これは盛國ではございません。安國と申します。まだ子供ですが鍛えられておりますので、これからあゆみ様をしっかりお守りしてくれると思います」
「へー、安國って言うんだ~。よろしくね!」
「あ……。は、はい」
安國は、口ごもるように言うと驚いたように、あゆみを見つめ直し、すぐに側から離れた。
「なに? なぁんか感じわるっ!」
あゆみは安國の態度に怪訝な表情をしたが、
「あ、いけない、いけない。感情的になっちゃいけないって天仁法師様にも言われてたよね」
気を取り直し二コリと笑顔を作ると信國に声をかけた。
「ここが例の修林寺ね! あの大きな観音様をここまで背負ってくるのは大変だったでしょうね~」
「あゆみ様、観音像はなぜ、朽木から曽に移されたと思われますか?」
「えっ? なぜって。瑞喜庵と修林寺のご住職が賭け事をして……」
「そう、表向きはそう言われていますが」
「信國! じゃあ、観音様が曽に移された理由は他にあるってこと?」
「おそらく。観音様が曽に移ったのが一二二四年と言われています。その頃は、対馬の支配者が阿比留家から宗家に移る少し前で、大宰府政庁からも様々な攻撃の前兆もあったはずで、対馬はかなり不安定な情勢だったと考えられます。
そこにつけ込んでの大魔王の憑依による観音堂への攻撃があったと考えることも出来ます。
そこで、瑞喜庵の住職と修林寺の住職の二人で、曽へ移す計画を実行したのではないかと。戦いがあると人々の心には憎しみや怒りや不安などが募り、それこそが悪の大魔王が忍び込む絶好の機会となりますから」
「なるほどね~。そちらの方が納得出来る!
ねぇ、信國。悪の大魔王と太陽の神々との戦いって、いつ始まったの? 天仁法師様と黒の法師が生まれた時から?」
「私が聞いている話では、もともと世界は、闇の国の魔王と太陽の国の神王の二つの力が司っていたそうです。それが古のある時、闇が世界を支配しようと企み、人々を争いの渦に巻き込もうとしたのです。太陽の神々はそれを阻止するために闇の国の魔王と戦ってきたと聞いております」
「悪の大魔王は、なぜ対馬を襲うの? こんな小さな島なのに。もっと人が多くて大きな街は他に沢山あるのに」
「それは対馬が太古の昔から太陽神の住む島だからです」
「ふーん、太陽神というのは、私のご先祖の神々だね……。
わかった! とにかく今は、この観音様の地に結界を張りましょう! そのあと私、豆酘崎まで行ってくる」
「豆酘崎ですか?」
「ええ、白ババに会って話を聞くつもり。自分のご先祖様についてもっと知っておきたいの。龍太郎宜しくね!」
側でじっと話をきいていた龍太郎は、全てわかったような顔で大きな瞳を閉じて頷いた。




