第十四章 その一
土埃と共にドドドドドと山を駆け下りてくる動物たち。よく目を凝らしてみると、それは野生の鹿や猪やテン、それにツシマヤマネコ達だった。
その集団の先頭で獣たちを率いているのは……。
それは見たこともないような大きな大きな鹿のような生き物だった。
鹿のような……と言うのも、まず普通の鹿とは比べほども無い位、かなり大きい体であり、頭に生えた二本の角は、角というよりも樹木の枝のようだった。先のほうには葉っぱがついている。
目は大きく睫毛が長い。体の毛はふさふさと長く、顔の周りも長い毛で覆われている。
「だ、だれ!?」
あゆみは驚いて目を見張った。
「あゆみ様、あれは大山鹿の主です」
「おおやまじかのぬし? な、なんなの、それは?」
「対馬の野生鹿の精……。わかりやすく言うと大猫神様のようなお方です」
信國はあゆみのほうを向いて答えた。
「もしや大山鹿の主も黒目にされてしまったの?」
「黒目に憑依されている様子ではありません」
〝人間は殺しすぎる〟
どこからともなく聞こえてくる低く響く声。
その声にあやつられるように、野生の動物たちは鋭い目であゆみ達をにらみ、今にも飛びかかろうという姿勢だ。
〝われわれ、野生の動物たちは、人間のせいで生きる場所がなくなりつつある。ツシマヤマネコたちは罠にかかり、手や足をもぎとられて、死んでいく仲間もいるしカワウソたちももはや数えるだけになってしまった〟
「あゆみ様、あれは大山鹿の主からのメッセージでしょう」
そう言うと信國は、あゆみの体を守るように前に立ちはだかった。
「信國、私たち、どうしたらいいの! 野生の動物たちと戦いたくないけど、このままだと殺されてしまうかも……」
あゆみは恐怖感に気が遠くなりそうだ。
その時、ざざざーっと大風が吹き、神社の中や裏山の木々を大きく揺らした。そして、山の中から大きな影がものすごいスピードで飛び出した。
「あっ!!」
その影を見たあゆみと信國たちは、大声をあげて一斉に驚いた。




