第十三章 その五
小牧宿禰神社の鳥居は道脇に一つあり、それをくぐると小さな橋があった。山からの水が神社の横を小川となって、前の三根川に流れ込んでいるのだ。
その小さな橋を渡るとまた石の鳥居があり、そこには神社を守る狛犬が二対睨むようにこちらを向いている。その鳥居をくぐると、石灯籠が両端にいくつか置かれている。その先には木の鳥居があり、その先に社殿がある。社殿の前にもまた狛犬が二対でしっかりと守るように参拝者を睨んで座っている。
観音堂は二つめの鳥居の先を左に行った奥の方にあるが、あゆみ達はまず先に神社の社殿を参った。
「天仁法師様、そして、私に繋がる代々のお母様、対馬を守る太陽神の神々。どうか私達を守ってください。悪の大魔王を二度と甦らせないように、私達がやっつけるから! どうぞ力を貸してください」
あゆみは、心の中でご先祖である日神の神々に願い、深々と頭をさげた。そして振り返ると、もう一度この美しい神社を社殿の前から見渡した。
この地は緑の溢れている。入口の鳥居に面する狭い道の向こう側には、道に沿うように大きな川があるが、川岸には桜の木など大きな木がたくさん並んでいるし、神社の中にも大きな杉の木が何本も植わっている。神社の裏は山で青々とした木々が茂っている。鳥の鳴き声も良く聞こえ、蝉の声も良く響く。
「とっても、のどかでいい所」
あゆみは嬉しそうに神社の中を見渡した。
その時、「ふぎゃあ、ふぎゃあ」と、けたたましい動物の鳴き声が静けさを打ち砕いた。
「何? 今の鳴き声はどこから聞こえた?」
あゆみ達は神社の中を見まわしたが、それらしきものは見当たらない。
その時、少し離れたところにいた龍太郎が大声であゆみの名を呼んでいる。
川沿いの道を少しカーブするように歩いた先に龍太郎がいて、その道脇には鉄格子のような箱が見えた。
「あっ、ヤマネコが罠にかかってる!」
あゆみと信國親子三人は、鉄の罠の所へ駆け寄った。
「鹿の罠にヤマネコがかかったんだ。可哀そうに」
信國はかがんでヤマネコをじっと見た。
「足をケガしている。罠の中で暴れたんだろうけど、それにしてはケガがひどい」
「信國、助けてあげて! 血がいっぱい出てる。大丈夫かなぁ」
目の前のヤマネコは興奮していて、よほどオリの外に出ようと暴れたようで口からも出血していた。あゆみ達が近づくと、「フーッ」と毛を逆立て、血に染まったキバをむいた。
「大丈夫……。こわがらないで、もう大丈夫だから」
あゆみはヤマネコに手を差し出した。ヤマネコはじっとあゆみを見て、少し落ち着きを取り戻したように見えた。
ところが、山手の方から地響きのような音がしたかと思うと、山の上から何かが土埃を上げて、何頭も何頭もかけ下りてくるではないか!
「の、信國! あれは何?」
あゆみは、目の前の光景にただただ茫然と立ち尽くすのであった。




