第十三章 その四
「ここはね、小牧宿禰神社っていう神社なんだけど、以前はこの側にお役所があったんだよ! そして、目の前には田んぼが広がってた。前を流れる川も大昔はもっと広かったな。人もたくさん行き来してたし賑やかだったんだよ」
あゆみは、側で怪訝そうな顔をしてる盛國に声をかけた。
「へー、タイムスリップの話、本当だったんですね!」
「本当だよ! 冗談だと思ってた?」
「冗談だとは思ってないけど、すぐには信じられなくて」
「だよね! 私なんか、ずっと信じられないことばかり続いてる」
そう言うと、ふふふっと可笑しそうに笑うあゆみ。
「あゆみ様、なんか感じが変わった? 少し背が高くなりましたか?」
「えっ!?」
あゆみが驚いた顔で盛國を見つめ直した時に、信國の声がした。
「あゆみ様、そろそろ結界をはりましょう!」
「そ、そうだよね。では中へ入りましょう」
あわてて、あゆみは観音堂の方へ行こうとした。
「その前に、神社にお参り致しましょう。まず、鳥居をくぐるときは一礼をして。あゆみ様、いつもやっておられるのに、今日はどうかなされました?」
「ううん、早くしないといけないと思ってつい焦っちゃった!」
(私、かなり背が伸びてる……。この前会った時は盛國より小さかったのに、今は私の方がデカい!! 日神の一族にも成長期ってあんの~!?)
何で? 何が起こってるの? あゆみの頭の中は混乱気味であった。
そんなあゆみの心の中を読んだのか、信國があゆみの前に片膝をつき顔をあげた。
「あゆみ様、いろいろとお悩みもあるかとは思います。しかし、今この時は大魔王から対馬を守ることだけに集中してください。あゆみ様の中に眠る日神の力が必要でございます。あゆみ様が上の空では、その力を発揮することは出来ませぬ」
「のぶくに……」
「ごめんなさい。私、自分のことだけ考えてた。そうだよね、ここ三根は観音様が焼けて結界が弱まってるかもしれないから、余計に力を入れなくちゃね!」
「はい、あゆみ様、この場所は対馬の上と下を繋ぐ重要な場所。ここを大魔王にとられたら上と下が分断されて大変なことになってしまいます」
「そっかー。わかった! もう一度、丹田に力を入れて…」
あゆみはずっと前に天仁法師に教えてもらったように、足を軽く開き腰を落として下腹にぐっと力をいれた。そして、もう一つの教えを思い出して「なるほど、自然に力が入るね、おしりにも」と心の中でつぶやくのだった。




