第十三章 その一
あゆみと信國は人目に付かぬように、内山の里からあゆみの家に戻った。玄関の前まで行くと、あんじょが表で待っているのが見えた。
「あゆみさま、おかえりなさいませ。ご無事で安心しました」
珍しくあんじょが目をうるませている。
「あんじょ! なんで泣いてんの!? 無事に決まってるでしょ。みんな、もう帰ってる?」
「泣いてなんかいません! ほこりが目に入って涙が出たんです!」
あんじょはムキになってそう言った。そして「白ババだけがまだですが、他の魔魅は帰っています」と付け加えた。
(白ババがまだ戻っていない!?)
あゆみは怪訝そうな顔をして「何かあったのかなぁ」とつぶやいた。
「とりあえず中にお入り下さい。みんながあゆみ様の帰りをお待ちしてます」
あんじょは玄関の戸を開け、中に入るよう促した。
あゆみが家の中に入ると、魔魅たちが待ち構えたように「あゆみさま~」と寄って来た。
「みんな、ありがとう!!」
あゆみはにこっと笑ってみんなの顔をみまわした。
「よかったぁ、無事に終わったんですね!」
しょうたんがあゆみの手をとり、嬉しそうに何度もうなづいた。
「ありがと! みんなのおかげだよ」
真っ赤な顔をさらに赤くして、ひとこえおらびが恥ずかしそうにしている。
「龍太郎が言ってたけどさ、ひとこえおらびは山の上でおーい、おーいで叫んでただけだってさ」
やまわろうのゲンがそう言うと、ひとこをらびは急にしゅんとした。
「いいの、いいの。ひとこえおらびのおーいって声、内山まで届いてたよ。だけど、あの声で太陽神の光が一つにまとまったんじゃないかな、多分」
えっ!
部屋の中が一瞬、シーンとなった。
「ほんとに?」「あゆみ様、それほんと?」
魔魅たちが口々にあゆみに聞いてくる。
「そ、そうだよ! ひとこえおらびのおーい!って言葉には力があるって、みんな知らないの?」
「ま、山ん中で悪い奴を引きこむこては知ってるけどさ」
「でしょ~。だから、光もその声に導かれたんだと思うよ」
(多分ね)と、あゆみは心の中で思いながら、ひとこえおらびにそっとウインクした。
「おーい、おーい」
いきなり、ひとこえおらびが大きな声で叫び出したので、部屋の中じゅうが大騒ぎになった。
「ふふふ。ひとこえおらび、もういいんだよ! みんなのおかげで、黒の大魔王の手下は退散したけど、まだまだ油断はできないわ。戦いはこれから! 私はまた結界を張りに内山を離れないといけなから、みんな力を合わせて内山を守ってね」
「まかせて下さい。あゆみさまが戻ってくるまで、みんなで力を合わせて守っていきます」
力強くしょうたんがかがり火をかかげた。
白ババの帰りが遅いのが気になりつつも、あゆみは奥の部屋へ行き、白い装束から普段着へ着替えた。
「あんじょ、そしてみんなもまたそれぞれの棲家に帰って、山や川や海そして里に異変がないか見張っててね。私は今からはるかちゃんの所へ行ってくる」
そう言うと、魔魅たちを見送り内山の里へおりた。
途中、春子おばさんの畑を身ながら複雑な思いを胸に抱え、はるかの家を尋ねた。
「はるかちゃん、内山、大変やったみたいやけど大丈夫やった? 」
「あ、あゆみちゃん、わざわざ来てくれたと? ありがとう!」
元気そうなはるかの姿を見て、あゆみはへなへなと座り込みそうになった。
「朝、あゆみちゃんがきてくれたやろう! あのあとすぐに春子おばさんが暴れ始めて、みんな大騒ぎしよる時に拓郎が来て、拓郎のおばあちゃんと私とお父ちゃんを浅藻に連れて行ってくれたと。でも怖かった……」
「え…、拓郎が来てくれたと?」
「うん、拓郎のお母さんと一緒に車で迎えに来てくれたとよ。あん時は、拓郎がほんとに地球防衛隊員に見えたよ~」
はるかは苦笑いしながら、あゆみを見た。
「へー、拓郎もやるねぇ! 拓郎のおとうさんは来んやったと?」
あゆみは、はるかにさりげなく聞いてみた。
「うん。拓郎のおとうさんは仕事でおらんやったよ。出張中ち言いよった」
「へぇ~」
あゆみは、それほど気にしていない感じを装っていたが、内心は気になって仕方なかった。
「拓郎にはお兄ちゃんと弟がおるって言いよったよね。お兄ちゃん達はおった?」
もう一度、はるかに聞いてみた。
「うん、よぉわからんけど、今日は誰もおらんやったよ! あゆみちゃん、拓郎のことが気のなるみたいやね~?」
はるかは少しからかい気味に、笑いをふくんだ目であゆみを見た。
急にはるかにそう言われて、あゆみはあわてた。
「えっ!? なんも気にしとらんよ。ただ、拓郎のこと何も知らんやったけん。もうはるかちゃん、何も思っとらんよ~」
「えー、あやしい~。あゆみちゃん、いいとよ。本当のこと言って~」
はるかはますます、からかってあゆみの顔をのぞきながら言った。
「もう! はるかちゃん、やめて! 拓郎のこととか、私、ぜーんぜん興味ないけんね」
あゆみは結構本気でふくれた。
「わかったよ、わかった! わゆみちゃん、そげん怒らんで、ごめんごめん。冗談よ」
はるかは、少しあわててあゆみの機嫌をとるようにあやまった。
あゆみもむきになった自分が少し恥ずかしくなり、「うそうそ、怒っとらんよ」と笑顔を見せると、「じゃ、私、帰るね! お母さんの看病もあるけん」とはるかの家をあとにした。




