第十二章 その五
ところで、太陽神の力を貰いに行った魔魅たちはどうなったのだろうか。
それぞれ大急ぎで目的地に向かったあと、皆さほど時間をかけずに直ぐに到着した。
あんじょととしょうたんは、それぞれにいつも守っている塔の前で水を供えお香を焚き、すぐにお経を唱えはじめた。
「対馬をお守りになっている太陽神の神々よ。そして、塔にお眠りの天仁法師様。今こそ我々に力をお貸しください。内山の地で、悪の大魔王と戦うあゆみ様に、この地よりお力をお与え下さい」
いつもに増して、一心不乱に力強いお経を塔に向かって、そして天に向かって唱え続けた。
離れた場所にある北と南の八丁角であったが、不思議にあんじょとしょうたんの声は重なり合い空の高い所で一つになった。
また、対馬の霊峰白嶽をまもる龍神は、さんきの仲間からの知らせを聞くとすぐに、白嶽の頂上の岩の上にたち、経を唱え始めた。
そして、美津島にあるアマテル神社にもの凄いスピードで走って来たのは、やまわろうのゲン。森の精だけあって風のように森の中を駆け巡りすぐに到着した。
「わぁ、太陽神を司る天照大御神をお祀りしている神社だけあって、やっぱりなんかパワー感じるな! すげぇ」
そう言いながら、神社の社殿に入ると、香を焚きお経を唱え始めた。
対馬の東海岸に面する阿連のオヒデリ様に行ったのは木太郎とさんき。
阿連には海岸に流れ込む川がある。その河口から、1.5キロほど上流のほうに行った所に、一本の大きな楠があった。木には御幣が付けられた縄が巻かれている。オヒデリ様の祠はその大木の根元に建てられていた。
阿連という地名は、もともとミアレという言葉から来ているそうで、ミアレとは神が現れる場所、神が生まれる場所という意味がある。それくらい、この地は神々に縁が深い土地なのだ。
その昔、留学先の唐からの帰りに、比叡山に天台宗を開いた最澄法師が阿連に流れ着いたことがあり、この川沿いにその碑も建てられている。オヒデリ様はその川上にある。
「さんき、ずっと前には、ここにいろんな神様がいたなぁ」
「いたねぇ、いたねぇ」
木太郎とさんきはオヒデリ様の前でかがむと手を合わせ経を唱え始めた。たまに人が通ることもあったが、人間には魔魅の姿は見えない。人々は何もないかのように普通に通り過ぎて行く。
反対側の西海岸の曲に行ったのは龍太郎とひとこえおらびであった。
ひとこえおらびは龍太郎の背に乗り、ひとっ飛びで曲のシラサキ様がある高平山の平らな岩の上に舞い降りた。
「おー、ここはなんていい景色だ。気持ちがいいなぁ」
シラサキ様と呼ばれる巨大な岩は白い御幣がついた縄がかけられていた。真ん中に切れ目があり神秘的な空気が漂っている。山の尾根が平らな岩でできていて、シラサキ様はそこに堂々とたっていた。
「ひとこえおらび、景色に見とれとる暇はないぞ。ほら、お経を唱えるんだ」
龍太郎はひとこえおらびにそう言うと、先にお経を唱え始めた。
ひとこえおらびは、山の上から見える曲の村やきらきら光る海の水面が気になって気になって、お経を唱えながらも、ちらちらと見ていた。そして、とうとう我慢できずに「おーい、おーい」と叫んでしまった。
「こら、ひとこえおらび、叫ぶんじゃない!」
龍太郎が注意したが、もう遅かった。
ひとこえおらびは、あまりの景色の良さに我慢できず、そのあとも「おーい、おーい」と何回も叫び続けるのだった。
あきれた龍太郎は、ひとこえおらびのことは無視することにして、一心不乱に天に助けを求めるお経を唱え続けた。




