第十二章 その一
「た、たいへんだぁ! 内山の里で春子さんが暴れてる。誰も手に負えなくって、はぁはぁ、大騒ぎになってるよ……」
やまわろうのシンが、ハァハァと息をきらしながら入って来て矢継ぎ早にしゃべった。
「大変だわ! 白ババ、私、里へ行って来る。黒目のやつら、春子おばさんをひどい目に合わせて許せない!」
あゆみの髪と目が少し赤みを帯びた。その様子を見て、白ババが誇らしげに言った。
「あゆみ様!! さすが日神の血を引く姫。いざとなれば奮い立たれる。
しかし、少しお待ちください。あゆみ様は戦いのお疲れが残っておられるし、これからあと四か所も結界を張っていかなければなりませぬ。
ここは、私たち魔魅の力も合わせ、皆で戦いましょう。あゆみ様には少しでも力を温存してもらいたい」
「それは有難いけど、どうやって戦うの?」
「私に策があります。
黒の大魔王は、今どんどん力を拡大し、その魔力を増幅しております。今こそ、魔魅たちと力を合わせ、古から伝わる太陽神の力をお借りする時でございます」
「て言うと、どうしたらいいの?」
「みな、ここに集まってくれ!」
白ババは部屋にいる魔魅たちに声をかけ、自分の近くに集まるように手招きをした。
白ババの隣にあゆみが座り、その側に信國。そして、三人を囲うように魔魅たちが座った。
「これから、内山の戦いの作戦を練るぞ。ようく聞いておくれ」
唾をごくりと飲み込む者、小さく何回もうなづく者、それぞれに白ババの顔を見て真剣に答えた。
「この対馬はもともと太陽の神の島である。人間が誕生する前からそうであった。、自然の恵みを受け動物や鳥や虫や小さな命があふれておった。我々、魔魅たちも太陽の神様に守られながらこれまで共にこの対馬で生きてきた。
太陽が昇れば手を合わせ、有難き幸せに感謝した。つつがなく暮らせる毎日に心から喜びを感じておった」
「つつがなく暮らす……」
突然、あゆみが遠くを見るような顔でつぶやいた。みんなが、あゆみの方に顔を向け、怪訝そうにしている。
「あ、ごめん。以前、天仁法師様の時代にタイムスリップした時に、天仁法師様が何度も口にしてたから、思い出したの」
「そうじゃ。天仁法師様はよく言っておられた。病もなく食べ物に困らず、争いもせず、つつがなく暮らす。それが良いのじゃと」
「それで、白ババ、わしらはどうしたらええんじゃ?」
急にひとこえおらびが、ぽかんとした顔で言うので、あゆみは急に可笑しさがこみ上げてつい笑った。
「何がおかしいんですか? あゆみ様。おいらは大まじめで言うとるのに……」
「あはは、ごめんごめん」
ひとこえおらびが赤い顔をさらに赤くして言うので、あゆみには、またそれが更に可笑しくてたまらなかった。
「では、私の策を言うから聞いておくれ。
先ほど言うたように、対馬には古くから太陽神が祀られておる。その場所に手分けして行き、神のパワーを受け取り内山にいるあゆみ様に送るんじゃ。われわれでは、それほどの力を引き出すことはできんかも知れぬが、皆で力を合わせればあゆみ様の役に立つであろう」
「白ババ、それで、その場所とは?」
木太郎が愛らしい顔で尋ねた。
「うむ。それが問題じゃ」
ズッコケそうになりながら「もう白ババ~」とみんなが不満そうな顔で見るのであった。




