第十一章 その三
「白ババ、答えが出てるってどういうこと?」
あゆみは白ババの前に行き、顔を覗き込むようにたずねた。
白ババはあゆみの目を見ると、低い声で話始めた。
「あゆみ様は、もうすでに自分には出来ないと思ってらっしゃる。お経を唱えても、母君のように倒れてしまうのではと恐れておられる」
あゆみは、はっとして白ババを見つめ直したが、ゆっくりと視線を落とした。
「白ババにはわからないのよ! 私がどんな気持ちで戦ってきたか……。白ババには……」
あゆみは突然、顔を手で覆うと肩をふるわせて泣き始めた。
心配そうに見つめる魔魅たち。
信國がすっと立ちあがり、あゆみの肩をだきながら、かばうように言った。
「白ババ、あゆみ様は佐護や仁田で、それは勇敢に戦ってこられた。そなたが言うように弱気な心を持たれておるのではない。今は、きっとお疲れでいらっしゃるのだ」
白ババは信國の方を向き、黙って首を横に振った。
「あゆみ様、これまで日神の一族にお生まれになった姫君達は皆、あゆみさまと同じ道を歩んで来られた。23の年になれば子を宿し、その子が5つの年になったら……」
「もうやめて! どうして私は日神の家系に生まれたの。そんなの望んでいないのに! 私も普通に生活したい。はるかちゃんや拓郎みたいに」
「あゆみ様……。お気持ちは十分にお察し致します。私も同じでございます。幼き頃より厳しい鍛錬を強いられ、何度もくじけそうになりました。なぜ、こんな家に生まれたのであろうかと、先祖を恨みました」
「のぶくに……」
あゆみは、信國の言葉に驚き、泣きはらした顔で信國に視線を向けた。
「信國もそんな時があったの?」
「もちろんでございます」
「じゃあ、なぜ今はそんなに迷いを持たずに戦えるの?」
「自分の子どもが生まれたからかも知れません。悪の大魔王の世になってしまったら、この子らがどんな目にあうのだろうかと考えると、日神の神々をお助けし、悪の大魔王を退ける事が己の使命であると腑に落とす事ができました」
「あの二人は信國の子どもなの?」
「はい、さようでございます。彼らもまた同じ定めを背負っていかねばなりません」
「信國の子どもの中に、拓郎もいるの?」
「えっ……」
珍しく信國が動揺しているのが伝わって来る。
「あゆみ様、それは……」
信國が下をむいたまま言葉を発し始めると、部屋中に緊張が走った。




