第十一章 その二
北の祈祷所近くにあるあゆみの家には、信國と魔魅のリーダー達が集まっていた。
「みんな、集まってくれて有難う!
もう知っていると思うんだけど、私達が六観音の結界を張りに行ってる間に、内山で大変な事が起きてるの。内山の里に住んでる春子おばさんが、黒目に憑依されて家畜や山の動物たちを襲ってる」
すぐに、山童のゲンが口をはさんだ。
「おいら達の仲間も襲われたってさ! 山で黒い霧をまとった春子さんと出会って、様子がおかしいんで後をつけたら、霧に囲まれて憑依されそうになったらしいんだ!」
「え! ゲン、それで大丈夫だったの?」
「危ない所だったけど、なんとか逃げられたみたいだよ」
「それなら良かったけど、かあさまが張った結界も、もう力をなくしたってことね。どうしたらいいのかな。まだこれから残り四か所の観音堂の結界も張らないといけないのに……。
こんな時にかあさまが目を覚ましてくれたらいいんだけど」
あゆみは母が寝ている部屋の方をちらっと見た。
「あゆみ様、母君が目を覚まされないのは何かきっと訳があってのこと。今いる我々で何とかしなければなりません」
側で黙って聞いていた信國が顔をあげて低い声で言った。
「それはそうだけど、春子おばさんを傷つけずに黒目のやつらを追い出せるかなぁ」
あゆみが不安そうにぼそりとつぶやいた。
しばらく考え込むあゆみ。周りにいた魔魅達もじっとして答えが出るのを待った。知恵者の信國でさえ何も言わず腕を組み、下を向いたままである。
(やだ! わたし? 私にかかってるの? まだ小学生なのに、私が全部決めなくっちゃいけないなんて……)
あゆみは下を向き、唇をぐっとかみしめた。
その時、ガラリと玄関の扉が開く音がした。
静まり返った部屋で、みんなが顔を見合わせていると、少しの間が空いたあと襖が開いた。
「遅くなったね。あゆみ様はお帰りかい?」
「白ババ!」
あゆみの顔がパッと明るくなった。
「おやおや、みんな、どうしたんだい? そんなに打ち沈んで」
「白ババ……、白ババはまだ知らないの? 春子おばさんのこと」
「知っていますよ! 私を誰だと思っていますか? ははは」
冗談めかして白ババが愉快そうに笑った。
「それで、白ババ、白ババには何かいい案があるの?」
あゆみは、そんな白ババが頼もしく思え、真剣な顔で尋ねた。
「あゆみ様、あゆみ様は母君でも無し得なかったこの内山と龍良一帯への結界を、果たして自分ひとりで張ることが出来るもんだろうかとお悩みになっておられるのでしょう」
「えっ!」
(白ババも読心術を習得しているんだろうか……)
あゆみはじっと白ババをみつめた。
「はははは……! あゆみ様、私が何年あゆみ様を見てきたか。あゆみ様が考えておる事くらいわかります」
「それで、白ババはどうしたら良いと思う?」
あゆみは白ババににじり寄るように近づいた
「どう戦っても、もう答えが出ています」
「えっ?」
あゆみはさっきよりも驚いた顔で白ババを見た。




