第十一章 その一
瀬田での戦いを終えたあゆみ達は、いったん内山へ帰ることになり、あゆみは定國と盛國と共に龍太郎の背に乗って空へ飛んだ。
信國はいたずら天狗が用意した天狗の飛び傘で内山へと向かうことになった。
白龍が、「自分が内山まで送ります」と言ったのだが、信國は断り、「白龍は御岳と佐護の守りを頼む!」と一言言うと天狗の飛び傘で飛び立ったのだ。
さて、あゆみ達が内山へと戻ると、あんじょやしょうたん、木太郎に山気などのたくさんの魔魅たちが出迎えてくれた。久しぶりの我が家に戻り、その夜は信國の勧めもあり、ゆっくりと体を休めるあゆみであった。
「あ~、やっぱり我が家が一番! 内山が最高!」
そう言いながら、まだ意識が戻らない母の横で、布団に入ると直ぐに眠りに落ちていった。
そんなあゆみを優しく見つけるあんじょ。
「あゆみ様、無事にお戻りになられて何よりでございます」
布団のめくれを直してあげながら、少し涙ぐみじっとあゆみの顔を見つめた。
翌朝、あゆみは、あんじょから内山に起きている異変を聞いた。
「内山の人たちも何か恐ろしいことが起きるんじゃないかと怖がってる様です」
「なんで春子おばさんが動物たちを……。まさか……」
あゆみは、春子おばさんの様子を見に久しぶりに内山の里へと向かった。
春子おばさんの家は、仲良しのはるかの家の近くにあった。小さな川にかけられている橋のたもとに、はるかの家があり、その橋を渡るとすぐに春子おばさんの家が建っていた。
あゆみは、はるかの家の前を通りながら玄関の方に目をやると、はるかがちょうど洗濯物を干そうとしていた。
「あ! はるかちゃん」
あゆみは笑って手を振った。
「あゆみちゃーん、どうしたと?」
気づいたはるかはすぐにあゆみの側に近づくと、
「あゆみちゃん、元気やった? おばちゃんの具合はどげん?」
と心配そうに尋ねた。
「う……ん、それが、まだあんまり良くはないんだけど……」
「そうなんだぁ、あゆみちゃんも大変やね…」
「ね、はるかちゃん、拓郎は元気にしてる?」
思い出したようにあゆみは、はるかに尋ねた。
「え、地球防衛隊の拓郎?」
はるかは、いたずらっぽい笑顔を浮かべた。
「そうそう、地球防衛隊の拓郎!」
あゆみもにんまりと笑って答えた。
「拓郎は浅藻の家に行ってるらしいよ。拓郎のばあちゃんが言ってた」
「あざもの家?」
「うん、あゆみちゃん知らんと? 拓郎はばあちゃんと二人で暮らしよるとよ」
「え! そうやったと? 知らんやった」
「拓郎のお母さんとお父さんは浅藻に住んでるみたいよ。確か、お兄ちゃんと弟もおったみたいやけど」
「へー、なんで拓郎だけ内山におるんやろう。拓郎もああ見えて、いろいろ大変なんやね。拓郎、寂しいやろうね……」
「うん、でも、たまにお父さんが来とるみたいよ。時々見かけるもん」
「へー」
「ねぇねぇ、あゆちゃん。浅藻って行ったことある?」
「えっ」
一瞬、天仁法師の塔が頭に浮かんだが、あゆみは頭をふりながら、はるかの顔を見た。
「ううん、行ったことないよ。はるかちゃんは?」
「私もないよ。行ってみたいねー、あゆみちゃん」
「うん、行ってみたい! 拓郎は浅藻でも山ん中でジャッキーチェンの真似して、鍛えよるっちゃない?」
ぷはははは……。
二人は顔を見合わせて、おなかを捩らせながら大笑いをするのだった。
ひとしきり笑ったあとであゆみは、はるかに尋ねた。
「ねぇ、はるかちゃん。最近、春子おばさん元気にしとる?」
「ん? 春子おばちゃんがどうかしたと?」
はるかは少しぴくりとした様子で、あゆみをじっと見た。
やっぱり何かあるんだ……。あゆみは直観的にそう思った。
「うん、春子おばさん、前はよく山の畑に来てたのに、この頃、姿を見ないなぁと思って……」
「なんかね、春子おばちゃん、最近、様子がおかしいって、うちのおとうちゃん達が話しとったよ」
はるかは急に声をひそめて小声で答えた。
「えっ、春子おばさん、もしかして病気?」
あゆみはわざと驚いた様子ではるかの顔をのぞいた。
はるかは、ますます小声になり、
「う……ん、病気っていうか……。誰にも言わんでよ!
変なものにとりつかれてるって言ってた、おとうちゃんが。
にわとり小屋を襲ったり、この前は鎌を振り回しとったらしいよ。最近、内山のあちこちでテンや猫や鹿とかの死体が落ちとるらしい。全部、春子おばちゃんがしたっちゃないって言いよった。
とにかく目つきが違うらしいよ。なんか、白目がなくなって黒くなっとるって。
みんな怖がって春子おばちゃんの家に近づかんち。うちは近所やけん、気味が悪い……。
あゆみちゃんも早く家に帰った方がいいよ。遅くならんうちに」
はるかが、あゆみを心配そうに見て大きく頷いた。
「わかった! はるかちゃん、ありがと。私、帰るね」
そう言うと、あゆみは急いで家に向かって走り出した。
はぁはぁと荒い息を吐きながら、夢中で走った。
(大変だ! 大変な事が起きてる!)
頭の中でその言葉だけがぐるぐる回る。
気がついたら、あゆみの家がある龍良の登山口の看板の所まで走っていた。
「あゆみさまー!」
遠くのほうからあんじょの声がした。
あゆみはまだ息が整わず、はぁはぁと大きく呼吸をした。
「あゆみ様、どうなさったのですか? そんなに息を切らして」
「あんじょ、今すぐ魔魅と信國達を集めて!」




