第十章 その四
「あゆみ……、あゆみ……。朝ですよ、さぁ起きなさい」
目の前に誰かいるけれど、光がまぶしくて顔がわからない。
「だ、だれ……?」
ピィピィ…、ピピピピ
外から鳥のさえずりが聞こえる。
「あゆみはホントに寝ぼすけなんだから! 学校に遅れますよ」
目の前の人は女性だ…。どこかで見たことがあるような……。
「あっ、かあさま! かあさま!」
あゆみは目を開いて、周りをゆっくりと見渡した。
「おや、あゆみ様、やっとお気づきになられましたか?」
あゆみはハッとして、すっかり意識を取り戻した。
「いたずら天狗ー! あなた、かあさまの声を真似したでしょう!」
「ははははは! あゆみ様の記憶をすこ~し逆戻りさせてみただけですよ」
「まったく! いたずら天狗って名前だけあって、やってくれるわね!」
ふくれっ面になったまま、いたずら天狗を軽くにらみつけた。
「まぁまぁ。あゆみ様。そんなに怒らないで下さい。いたずら天狗は、あゆみ様がお倒れになって、それはそれは心配しておりました」
横から信國が笑いながら助け船を出した。
「そうだ! 悪の大魔王の手下達はどうなった?」
そう言いながら、あゆみはふらつきそうになりながらも起き上がろうとした。
「あゆみ様、まだしばらくはお休みになってください」
信國は、倒れ掛かったあゆみを優しく寝かせた。
「外はもう大丈夫かしら……」
あゆみは仰向けになったままポツリとつぶやいた。
「結界もしっかりとお張りになりました。おそらくもう大丈夫でしょう。私が見て参ります」
信國が立ち上がり、観音堂の扉をそっと開けた時だった。
ぴゅうと風が吹いたかと思うと、葉っぱの形をした葉太郎が入り込んで来た。
「あゆみ様、あゆみ様、大丈夫でございますか?」
「あら、葉太郎! どうしたの?」
「あんじょ様からの伝言を持って来ました!」
「あんじょからの伝言? 何かあったのかなぁ」
あゆみは躰を起し、葉太郎を手の平に乗せた。
「あゆみ様、大変です。内山があぶない!」
「えっ!! どういうこと?」
「春子おばさんがあぶない! 内山があぶない!」
葉太郎はぶるぶると震えながらそう言った。
「信國、次は三根の観音堂ですが、いったん内山へ戻りましょう。内山で何か良くない事が起き
てるみたい!」
あゆみは信國の顔を見上げきっとした顔になった。




