第十章 その二
「親史! やっぱり来てくれたのね!」
「おいらは親史殿ではありません!」
信國たちの間から赤い顔をしたひとこえおらびが慌てて出てきた。
「ぷっ」
今度は定國と盛國だけでなく信國まで噴き出してしまった。
「もう~」
あゆみは少しふくれつつも、ひとこえおらびを見ながら笑いをこらえた。
「みんな、ありがとね! 次の観音堂でもしっかり結界を張ってくるから。悪の大魔王になんか負けないからね」
「あゆみ様、お願いします」
「あゆみ様、お達者で」
見送りに来た魔魅たちは口々にあゆみ様、あゆみ様と呪文のようにつぶやいた。
「あゆみ様、参りましょう! 観音堂は何も変わりはございません。あゆみ様の結界がしっかりと効いてようでございます」
信國の言葉に大きくうなずくと、あゆみは龍太郎の背にすっと乗った。
はぁ!
龍太郎は一つと大きく息をはくと、あっという間に空高く舞い上がった。
「あ、御岳が見える!」
あゆみがそうつぶやいたかと思うと、もう次の集落が見え始めていた。
「あゆみ様、そうそろ着きますよ」
「次は瀬田の観音様ね! たしか……、国本神社って神社の中に観音堂があったと思うんだけど……。」
龍太郎はあゆみに言葉が聞こえなかったのか、なにも答えず川を越え田んぼの側にある小さな山の近くに舞い降りた。それに続いて、白竜に乗った信國一行も到着した。
あゆみは、周りをきょろきょろと見まわしている。
「国本神社が見当たらないけど……」
「もともとは国本神社の中にあったそうですが、今はこの小高い丘の上に観音堂があります。」
「えー、やはりここもそうなのね。
えーと、はいふつ……!?
「はい、廃仏毀釈という明治政府の方針で、六観音の多くが神社から切り離され、別の場所に移されました。天仁法師様の結界に隙ができたのも、そのことに原因があると思われます」
「そうなの……。じゃあ、瀬田の観音様は今は、どうなってるの?」
「この小高い山の上に観音堂があって、観音様はその中に奉納されています。ただ、ここの観音様はもうずっと前から本原様のお家がお世話しておられます」
「もとはら……さま」
信國が小高い山の上を指さしてあゆみに事情を話していると、後ろから咳払いが聞こえた。
「こんな早朝からどうなされましたか?」
聞きなれない男の声がした。
あゆみはぎょっとして、後ろを振り向いてさらに驚いた。




