第十章 その一
親史の家を出て、川沿いに行くと、山のすそ野に面するように木々の茂みが続いていた。
「あゆみ様……」
誰かが茂みの中から声をひそめて、あゆみを呼んだ。
「龍太郎! 信國さま達は?」
「信國様たちは人目に付くからと観音堂へ先にお行きになりました。私だけであゆみ様をお迎えにきました」
「おお、龍太郎! さようでござるか! あゆみ様、さぁさ、龍太郎に乗って信國さま達が待つ大江へ」
親史も小声であゆみに向かってそう言うと大きくうなづいた。
「大江って?」
あゆみが親史を改めて見た。
「大江とは観音堂が建っている所です。信國様たちは観音堂に異変がないかを気になされていたので、それもあって先に行かれたのでしょう」
「あゆみ様、人目につきます。早く背中に乗って下さい」
龍太郎が茂みから出てくると、背を差し出すように躰をくねらせた。
「親史は?」
あゆみは目を大きくして再び親史の顔をのぞいた。
「あゆみ様、残念ですが私はここでお別れです。私は今から天道山に行き、大猫神様のご様子を伺ってきます」
「あ、大猫神様! 大丈夫かなぁ!?」
「だいぶ元気になられましたよ。昨夜は信國様一行とずっと一緒でした。さぁ、背中に乗って下さい」
龍太郎が急かすように、あゆみを見た。
「わかった! じゃあ、親史、さよなら。大猫神様のこと宜しくね」
あゆみはニッと笑うと、龍太郎の背にのり一気に空へ舞い上がった。高く舞い上がったと思ったら、すぐに下降して昨日の観音堂の前に降り立った。
観音堂の側には川が流れている。川沿いに細い道があり、木々が植わっていて視界をさえぎっている。
龍太郎は木々の側にあゆみを降ろすと、
「信國様たちはおそらく観音堂の裏手の茂みにいらっしゃるかと思います」
観音堂に視線を送りながらそう言うので、あゆみは急いで観音堂の裏手に回ってみた。
「のぶくに~」
笑顔で信國が二人の仲間を連れてあゆみを出迎えてくれた!
「あゆみさま」
「あゆみさまぁ」
三人の後ろから聞きなれた声がした。
「あっ、わらかざし! それに木太郎にさんきまで。みんなそろってどうしたの?」
「だって、今から仁田の観音堂へ行かれるって聞いたから」
わらかざしが、もじもじしながら答えた。
「見送りにきてくれたの?」
あゆみは嬉しそうにそう言うと、わらかざしをぎゅっと抱きしめた。
「おいらもきてますよ!」
いきなり太い声がして、木々の間から何者かがぬっと出てきた。
「きゃあ」
とっさに、あゆみは驚きの声をあげた。




