第一章 その四
あゆみは、もう一度、村人の話に耳を傾けた。
「黒の法師が島中をめちゃくちゃに荒らすから、法師さまが怒って、何度捕まえてこらしめたかわからん。
けれど、だんだん酷くなる一方だったからな。黒の法師が大魔王になってからは、黒目の動物が増えて、人間を襲い始めたり、しまいには人間まで魔力にかかって、殺し合ったりしたそうな」
(黒の法師ってだれ? 大魔王になるってどういうこと? 法師さまというのは、私達のお父さまのことだよね)
あゆみの頭の中で村人たちの言葉がグルグルと駆け巡った。
村人はひとしきり話すと、家のある方へと歩いていなくなった。
「多分、今は法師さまが亡くなった時代なんだ。
やっぱり私、タイムスリップしちゃったみたい。
それにしても魔魅のゲンとシンは、こんな時代からいたなんて驚き!」
あゆみは、「あっ」と言葉をもらすと、何かを思いついたように、指を唇にあて、ぴゅーと指笛を鳴らした。すると、葉っぱの形をした魔魅の葉太郎がどこからともなくヒラリと飛んできた。
「やぁ、おいらを呼んだかい。なんか見かけない顔だけど、どっから来たんだい」
「えっ、葉太郎、私の事がわからないの?」
「え、なんでおいらの事がわかるんだ!」
「そっかぁ、私、まだ生まれてないもんね」
「私は、あゆみって言うの。葉太郎にお願いがある」
「なんでしょう?」
「私を法師さまのところに連れてって欲しいの」
「法師さまはもういない。闇を封印されたんだ。ご自分の命と引き換えに」
「法師さまが入られた塚に連れて行って」
「そこだけはダメだ。法師さまから誰も入れちゃなんねえと固く言いつけられてる」
「だって、だって、私を元の時代に戻せるのは法師さまだけだから。私が帰らないと、かあさまが、かあさまが……」
あゆみはそう言うと、大声で泣きじゃくった。しゃくりながら、むせびながら、ずっと泣き続けた。
葉太郎が困っていると、遠くから優しい歌声が聞こえてきた。
♪てんてんてんの おほうしさまが
つかにはいって しまをまもる
てんてんてんの おほうしさまが
つかにはいって しまをまもる
その声がだんだん近づいてくると、あゆみは泣き止み、ボーっとして座っている。
そして、薄れゆく意識の中で子守唄を聴いていた。
♪てんてんてんの おほうしさまが
つかにはいって しまをまもる……