第九章 その三
「ええっ! 信國達がいない! どこにいっちゃったの?」
あゆみは心細さのあまり泣きそうな顔で親史を見た。
「あゆみ様、安心してください。信國殿は修験者たちです。夜はこの山中で過ごされるのでしょう。ささ、あゆみ様は私のうちへお越し下さいませ。
今日は早くに、龍良を出発なされたんですよね。さぞお疲れでしょう!
我が家はそれほど立派な家ではありませぬが、今夜はゆっくりお休みになってください」
「信國達は、今夜はこんな山の中に泊まるの? 大丈夫なの? 鹿や猪や他にも怖い動物がいるんだよね!」
あゆみは信國達三人が心配でならなかった。
「あっはっはっは…。
あゆみ様、信國殿の先祖は天仁法師様の一番の弟子である三位坊様でございます。
天仁法師様がご入定されてから1400年あまり。天仁法師様の言いつけを守り、日々、修行に身を投じて参られました。私はその三位坊様を補佐する役目の少位補の子孫。私は、佐護の天道山と大猫神様率いるツシマヤマネコや山に生きる動物たちが、人間と共に平穏に暮らして行けるよう、この土地を任されました」
「そっかー! そうだよね。信國なら平気だよね。今日も朝から何度も助けてくれたし。
そうとなれば、早く親史のうちに連れてって! 朝から何にも食べてないからお腹すいちゃったし、それに疲れた…」と言いながらももう大きなあくびをしている。
「あゆみ様、お可哀想に。さぁ、私の背中に乗ってくだされ」
そう言うと、親史はあゆみを背中にヒョイとからった。
「えー、赤ちゃんみたい! 何か恥ずかしいよ」
そう言うながらも、親史の大きな背中で心地よく揺られてるうちに、あゆみはすっかり眠りに落ちてしまった。
そんなあゆみに、親史はふっと優しい表情を向けるのであった。




