第九章 その一
ふくれっ面のあゆみに優しい眼差しを向けると、信國は静かにきりだした。
「あゆみ様。
この島だけではありません。時代と共に人々の生活は変わりました。
例えば、昔は道は狭くデコボコで、今のように舗装などありません。水も今では水道の蛇口をひねれば直ぐに出る。ガスも電気もスイッチ一つです。
植林と言う名のもとに自然の木は切られ、政府の任命で杉や檜などの木が植えられた。
そこに昔から棲む生き物達は棲家をなくし、その生き物を餌にしていた動物達も…。
山は、木や草やそこに棲む生き物達で作られているのです。
そうした命が集まって山の命が生き生きとするのです。
山の気というのは、そんな命の集まりから発せられるもの。
気合いとか元気とか雰囲気とか、そう言った「気」でございます」
「そう言った気、そっかー!
何だか、天仁法師様と話してる気分になった! さすが、法師様の一番の弟子の末裔ね」
あゆみはニッと笑い信國を見た。
「いやいや、それは有難いが畏れ多い!
ところで、あゆみ様。次は仁田の観音堂ですが、もう今日はだいぶ日が暮れて参りました。
今夜、この佐護の地にお泊まりになりますか」
「そうだよね〜。
夜はくらいし、変な物が出ると怖いし……」
「変な物っておいらのこと?」
いきなり、あゆみの目の前に山気が現れた。
「きゃあ! もう、山気、びっくりさせないで」
その様子をみていた三位坊が連れている二人の男たちが小さく、くくくと笑っている。
山気はお構いなしにあゆみに言った。
「あゆみ様、ご心配なく! 夜の森の案内はおいら達に任せて」
「任せてったって、夜の山はやだよ!
だけど、三位坊、泊まるにしても、どこに泊まるの?」
「それならご安心ください。佐護の地には、我ら修験者の仲間もおりますし、その他にも天仁法師様に仕えていた者達の末裔も残っております」
「え! 1,400年も経つのに?
天仁法師様ってホントに凄い人だよね」
ガサッ
いきなり後ろの薮から物音がした。
「誰だ!」
信國と二人の男も剣に手をやり構えた。




