第八章 その四
「山気はこの森にも棲んでるの?」
「おいら達の仲間は、対馬の山や森にはどこにでもいるさ! なんせ悪さをするヤツが入って来たら、道に迷わせたり、森の奥深くに引きこんで怖がらせたりしないといけないからな」
「じゃあ、天道山にも行くんだよね!」
あゆみは、大きく目を見開いた。
「もちろんさ! 天道山は大事な山だからしっかり見張らなきゃ」
「大猫神様のことは知ってる?」
あゆみは山気をじっと見つめた。
「あったりまえだよ! この地で大猫神様を知らない魔魅がいたら、そりゃ、潜ってるやつだろ」
「潜ってるやつ? モグラってこと?」
あゆみが真剣な顔で聞くので、三位坊一族の三人は顔を見合わせて、三位坊の頭までがクスリと笑い顔になった。
「もう、信國までー! 笑ったわね」
あゆみは少しふくれた顔をしたが、信國を睨みながらすぐに笑った。
信國は笑いながら、すかさず言った。
「では、山気! 大猫神様のところまで案内してくれるか?」
「それが…。
前々から、弱りかけてた大猫神様は最近、とんと姿を見せられないんだ」
山気はしょんぼりとした。
「そして、今は? 今はどこにおられるのだ?」
「俺たち魔魅もはっきりとはわからないけど、だいたいの察しはつきます」
「では、そこに連れて行ってくれ」
山気に案内されて、四人は天道山に入った。
「まずは祠に参ろう」
祠を参ると、山の深くにぐんぐん進んだ。三位坊の三人は、あゆみが歩きやすいように、前を遮る枝を払ったり、足元の木や石をよけながら、あゆみを誘導した。
「ここいらに居られると思うのだが…」
「あっ! あそこに居られる!」
信國が指を指した。
頂上近くの光も入らない木々の茂ってところに岩場があり、一本の大木があった。
木にはツルがグルグルと巻き付いていて、その根元に大きな猫が倒れるように横たわっていた。
「大猫神様! 大丈夫でございますか」
「大猫神さま…」
あゆみは、目の前にいる猫とは思えない大きな生き物に目を奪われた。
山気と四人は、大猫神の側に近づいた。
「はっ! なんだ、これは?」
四人の足は、大猫神の前でピタリと止まった。




