第八章 その三
三人は、多久頭魂神社に参拝をして、天道山に挨拶を済ました。
「大猫神様はどこにいるの?」
「天道山の奥深くに。最近は森の変化にだいぶ弱っておられると聞いています。
私が案内しますので、ついて来てください。」
信國は、あゆみの顔を見ながらそう言うと、ゆっくりとうなづいた。
多久頭魂神社の横には芝生のような草地があり、その横に沿って狭い道があった。
「この道はどこへ行くの?」
「この先には棹崎公園があります。
その手前に、ツシマヤマネコ保護センターがあり、ヤマネコが育てられています」
「野生のツシマヤマネコが育てられてるの?」
「環境の変化で、生きにくくなった動物達は個体数が減り、保護をしないと絶滅する恐れがあるから、人間の手で育てているのです」
あゆみは、タイムスリップをして法師の時代に行った時のことを思い浮かべた。
「そうだよね。
法師様の時代と比べると、道が広くなってるし、あちこちにコンクリートの部分が増えてる。森の感じも全然違う。緑が随分減ってる気がする」
「ツシマヤマネコの餌になる小さな動物達が減少するとヤマネコ達も減少するし、自動車にはねられてなくなるヤマネコもいます。
また、里に棲むノラネコの病気が感染したり…」
「え!? ノラネコの病気が感染?」
「はい、ノラネコは過酷な環境で生きているため、病気にかかりやすく、特にネコエイズや白血病のウィルスに感染してしまうのです。
感染したノラネコとツシマヤマネコが喧嘩して傷をおった時に、そのウィルスが伝染してしまうという悲しい連鎖が起きるのです」
「えー、知らなかった。どちらのネコも可哀想」
「特にツシマヤマネコは、対馬にしかいない個体で、今や絶滅の危機に瀕している…」
「人間が自分の都合で飼って、都合悪くなると捨ててしまったりするからだよね」
あゆみは、キッとした顔で信國を見た。
「あゆみ様、そろそろ人間は大きく変わる時期を迎えています。
これから人間がこの星でいつまでも生きて行けるかどうかをかけて。
それは悪の大魔王に屈せず、この島を守ることにも繋がるのです」
「そっかー。
あゆみ、絶対に負けない! ネコちゃん達のためにも頑張る」
あゆみは天道山を見た。
「では、参りましょう。
本来、天道山は御神体で、通常、人は山に入る事はできませぬ。しかし、我々は修験道者として、この山で修行をさせていただいておる身。祠をたて、山の神を祀り守っておるのです。
また、あゆみ様は日輪の一族の末裔でおられる。我々のみがこの山に入る事が許されるのです」
あゆみは唾をゴクリと呑み、天道山を見つめた。
「わかった、信國。大猫神様に会うという事はそういう事なのね。丹田に力を入れて大猫神様に会うわ!」
「ん? たん…でんですか」
理解出来ないような顔をして信國があゆみを見た。
「いいの、いいの、気にしないで。法師様に教わったこと」
「プッ」
三位坊の中で一番小さな盛國が、小さく吹き出した。
「なによ、また笑ったわね」
あゆみが睨むように盛國を見ると、
「はっ、申し訳ございません。ただ、あゆみ様は時々、意味不明なことを言うので、つい吹き出しました」
「うーん、それはある意味、当たっとるかもしれませんな〜」
木々の間から、聞き慣れた声がした。
「さんき〜! いつの間に」
「あゆみ様の声が聞こえたんでやってきました!」
山気はニッコリしながら、近くの木の枝にとまった。