第八章 そのニ
あゆみは龍太郎の背に乗り、白龍に乗った三位坊の後に続いた。
川沿いを少し行くと、広い河口が見えた。
白龍と龍太郎はゆっくりと河口の左手の草地に舞い降りた。
「あ、ここは…」
「あゆみ様、多久頭魂神社に来たことがありましたか?」
「え、ええ。まだここに神社が建つ前に…」
「なんと! それはどういう事ですか?」
あまりに驚いたのか、三位坊は何かを考えるかのように一度目を閉じると再び、あゆみを見つめ直した。
「驚いた? 信じられないと思うけど、天仁法師様が生きてる時代にタイムスリップした事があって、その時はまだ神社はなく、ここは祈祷場だった」
「にわかには理解出来ない事ですが、あゆみ様は法師様と同じ日神の血筋を引かれた方。そのようなお力があってもおかしくはない」
「これから共に六観音を守っていくんだから、その時のこと三位坊に話しておいた方がいいよね!」
「是非とも、聞かせてくださいませ」
「ねぇ、その前に。
三位坊と三人の仲間たち、なんて呼んだらいいの! 名前…、あるよね」
あゆみが一番小さい男の顔を覗き込むように見た。
その男は目を大きく見開くと、
「お、おれ?」
困った顔をして、一番小さい男は三位坊の末裔の男を見た。
「あっははは…。名前はございます。
しかし、我々、三位坊は決して表に出ることはなく、陰で法師様や政の要人をお守りしてきた一族。
それ以上のことを明かす事は出来ませぬ。法師様も我々の事をお尋ねになられた事は一度もなかったと伝えられております。
まぁ、法師様のことなので、全てお見通しだったのかも知れませぬが」
「へー、そうだったの! 謎の一族なのね。なぁんか、かっこいい」
「あっははは。あゆみ様は本当に愉快な方だ」
「そう? どこが愉快なの? よくわかんないけど。
わかったわ、とにかく名前だけ教えてちょうだい。呼ぶ時になんて言ったらいいのか困るから」
「かしこまりました。
私は、三位坊河野万太郎信國と申します。信國とお呼びください。
そして、隣にいるのが、定國。その隣が、盛國」
「もりくに? だよね! 拓郎に見えて仕方ないけど、こんな所に居るわけないよね」
そのあと、あゆみはタイムスリップをして、天仁法師と共に、六観音に結界を張り巡らせたことを、かいつまんで話した。
「そのような事があったのですね!
日神の一族の力は凄まじい。あゆみ様、どうかこの島を、この島の民を黒の大魔王からお守りください。
我々、三位坊の一族は命をかけて、あゆみ様をお守り致します」
「じゃあ、三位坊信國! 森の大猫神様に会いに行きましょう!」
あゆみはニコリと微笑むと天道山を見て明るい声で言った。
「はっ、かしこまりました」
三人の修験道者はあゆみの前に片膝をつき、頭を下げるのだった。




