第一章 その三
「え、ここはどこ?
あ、かあさまは? かあさまー」
気がつくと、あゆみは森の中にいた。目の前には小さな建物があり、観音様が二体祀られている。
ロウソクを立てる台に、線香をたく入れ物。木魚や鐘もある。
「ここはいったい……。見たことあるような気もするけど」
あたりを見回すと、近くに畑があった。
よく見ると、馬が畑を耕している。そして、馬に乗っているのは……。
「ゲン! なんでここにゲンがいるの? それにシンも」
ゲンとシンと言うのは、あんじょと同じ島の精で、山を守っている山童と言う魔魅である。
耳をそば立てると、何か話している。
「とうちゃん、人間の仕事も大変だね! 太郎どんが、森に木の実を探しに行ってる間に全部やってあげよう」
「そうだな。しかし、太郎どんは、この前、弁当がなくなったって騒いだ時に、ワタボシカブリのせいにしとったからなぁ。
わしらの仲間のワタボシカブリのせいにするなんて、けしからん!
手伝うのは半分だけにしとこう。それか、今日は本当に弁当を隠してやるか!」
「とうちゃん! だめだよ。太郎どんは、弁当が見つかった時に、ワタボシカブリのせいにした事を謝ってたじゃないか!」
「おまえがそう言うなら仕方ない」
ゲンはしぶしぶ馬に乗って畑を耕した。
ぷっ
その様子を見ていたあゆみは、つい吹き出した。
「ゲンたら、相変わらずね」
あゆみは笑いながら、目の前に続く道を歩いた。
「この道は、うちから里に下りる道とそっくり」
里に出ると家があった。
「えっ、どういうこと」
あゆみは、思わずその場に立ち尽くした。
里にある家は藁葺き屋根で、今の町の様子とは全く違う。
人の気配がした。
あゆみは木の陰にそっと隠れた。
「おまえさん、聞いたか。法師さまは、塚に入られてから八日目で、鈴の音が途絶えたらしい」
「そうかい。法師さまは、闇を連れて葬りなさったんじゃ。わしらを守ってくださったんじゃ」
村人は、その場で泣き始めた。見たこともない人々だが、なんだか懐かしさを感じる風景である。
しかし、見るからに何もかも現代とは違う。着ている服も、髪型も、家も。
まるで社会科の教科書に出てくるような古い時代の光景だ。
「もしかして、わたし。違う時代に来ちゃったのー?」