第八章 その一
結界を張り終えた観音堂の周りには、いつも通りの静かな空気が流れている。
耳を澄ますと鳥たちのさえずる声。
魔魅たちは安心したのか、それぞれの棲家に帰って行った。
観音堂の扉が開いた。
最初に出てきたのは、三位坊の末裔の男で、用心深く観音堂の周りの様子を伺いながら、観音堂の外に出た。
そのあと、清々しい顔をしたあゆみが、少し疲れた足取りで観音堂の段を降りた。
その後ろには、三位坊の弟子二人があゆみを守るように出てきた。
「あゆみ様、お疲れ様でした。
素晴らしいお経でした。さすが、天仁法師様の血を受け継がれた方でございます」
「三位坊、有難う。あなた達のおかげよ!力を貰えた。次は仁田ね」
「はい。仁田の観音堂は、今、瀬田の円明寺の裏手にあります」
「え? と言うことは、仁田の観音堂も違う場所に移ったのね」
「はい。國本神社から円明寺の裏手の丘へ移動しています。
しかし、その前に少しお時間をお取りいただけますか?
佐護に鎮座されてる神々と、私どもの修行の森を守る大猫神様にご挨拶をしてから次へ参りましょう」
「大猫神様とは?」
「はい、私ども修験道者は、佐護の地におきましては、御岳の他に天道山で修行をしておりますが、そこに長く棲むツシマヤマネコの主がおられるのです」
「ツシマヤマネコ!? 聞いたことはあるけど…、見たことない」
「今は絶滅の危機に瀕した者たちで、全島に100頭くらいしか残っておりません」
「えー、そんなに少ないの!
そして、その主が天道山にいらっしゃるのね」
「あゆみ様も共に参りましょう」




