第七章 その三
白龍と龍太郎は、あっという間に佐護の地に到着した。
「あ、ここ! 神社の中に観音堂があったはず」
龍太郎の背に乗ったあゆみは、眼下に見える神社を指差した。
しかし、白龍は神社には降りず、そこから少し先に行った田畑の広がるところに降りた。
側には川が流れていて、正面には森が見える。
「えっ! どうしてそちらに降りるの?」
「あゆみ様。山の裾野に見える小さな建物が観音堂です。
今から100年ほど前に、仏様と神様は切り離され、神社の境内から移されました」
龍太郎は、白龍に続き観音堂の前に広がる畑に舞い降りた。
白龍と龍太郎が身体をくならせた時に風が起こり、畑に植わった草がうねった。
あゆみか着ている祈祷の服も上着やズボンの裾がはためいた。
あゆみは剣を持ち、観音堂とその周辺を見た。
右側には川が流れている。
左側の奥の方に数軒の家が見えた。あゆみ達がいる場所から家がある所まで狭い道が繋がっていて、家の前のところに柵のようなものが付いていた。
「早速、祈祷して結界をはりましょう!」
観音堂の手前には数段階段があり、格子の扉があった。
「法師様と参った時は、まだ新しかったんだけどな」
「あゆみ様。この観音堂は立て替えられたものだから、まだ新しいうちですよ! ただ、観音様は古くなってしまわれた……」
白龍が寂しげに呟いた。
「あまり、人が来ている気配はありませんな」
三位坊はそう言うと、先に入り座布団などを整えた。
「白龍と龍太郎は、外を見張っていて!」
あゆみはそう言うと、石段を上り観音堂の中に入った。三位坊の仲間の二人もあゆみに続いて入った。
「では、祈祷に入る。みな、気持ちを一つにお経を唱えよう」
いつになく凛々しい顔で、あゆみはそう言うと、座布団に座った。
お経を唱えようと、経典を開こうとした時だった。
「あゆみ様、あゆみ様」
龍太郎が声をひそめたように呼ぶ声が聞こえ、それと共に外がざわつき始めた。
「どうしたの?」
あゆみは観音堂の扉を開けたまま、その場に立ちすくんだ。




