第七章 その一
「えー! どういうこと?
白龍、意地悪しないで教えて、教えて!」
「時を超えて、皆があゆみ様のもとに集まり、命をかけて戦うと言う事です。
あゆみ様は、その真っ直ぐな心でこの島を守ってくだされ」
「わかったようで、よくわかんないけど、私の味方がいるってことね!
みんなが力を貸してくれるのは心強い」
あゆみは、白龍を見てにこりと笑った。白龍は照れたようにポッと赤くなった。
「あゆみ様、少し御岳の様子も見ておきましょう!」
龍太郎はそう言うと、背中に乗るように促した。
「それがいい。最近は、御岳の森も何やらざわつく事が多い。私の見張りだけでは、悪の魔王の手下が入り込むスキを与える」
白龍も首を大きく振りながらそう言った。
あゆみを背中に乗せた龍太郎は、森の中を低く飛びながら御岳の様子をさぐった。
「キィー」
突然、切り裂くような叫び声がした。
「どうしたの。今の声は何?」
龍太郎は声のした方に近づき、林の中に静かに降りた。
「確か、こちらから声が……。あっ! 龍太郎、見て」
黒い闇のような霧に取り囲まれた小さな動物が倒れていた。
あゆみは、すぐにお経を唱えながら、光の風をおこすと、闇に目掛けて放った。
お経の声がどんどん大きくなると、黒い霧はうめき声をあげながら、散り散りに消え去った。
「大丈夫?」
あゆみが倒れた小さなテンを抱き起こしたその瞬間、
「ガァオー」
歯をむき出し、真っ黒の目になったテンは、あゆみに飛びかかった。
「きゃあー」
咄嗟のことに、体勢を崩しかけたあゆみは剣を落とした。
そのはずみで鞘がぬけて、剣の刃が少し覗いた。そこからまばゆいほどの光が放たれた。
「キィ、キィ、キィ」
黒目になったテンは暴れ出したかと思うとまた、その場に倒れた。
「あゆみ様、大丈夫ですか?」
龍太郎が木々をよけるように近づいた。
「私は大丈夫。だけど、このままでは御岳の動物達が危ない」
「御岳には祈祷を行う所はあるの?」
「はい、この山は昔から霊峰であり、修験者の修行の山であります。
祠がありますし、祈祷所もあります」
「しゅげん……しゃ。
確か、天仁法師様がいらっしゃった時にも、そんな人がいた。えっと、名前が……。うーん、思い出せないけど、法師様の一番の味方だった。
龍太郎、その場所に連れてって」
あゆみがそう言った直後、風が吹きあれ、つむじのようにグルグルと回りはじめた。
その輪はどんどん大きくなり、あゆみと龍太郎を囲むように葉っぱを吹きあげながら、激しい風の輪となって回り続ける。
そして、その輪の中から、大きな葉っぱがあゆみと龍太郎に向かって飛んできた。続けて何枚も何枚も飛んできて、あゆみと龍太郎の体に貼り付いた。
「あ、葉太郎だ! 何してるの。
葉太郎、やめて! 体が動かない」
魔魅の仲間である葉太郎があゆみと龍太郎の身体中に貼り付き、がんじがらめにしているのだ。
「龍太郎、大変! 葉太郎たちは黒目に憑依されてる」
「ははは……。これでは動けまい!
剣も抜けない。もうすぐ、しゃべることも出来なくなるぞ」
葉太郎がそう言うと、グルグルと吹き荒れる渦の中から、別の葉太郎が飛び出して、あゆみと龍太郎の口を塞ぐように貼り付いた。
「これで術も使えないだろう。ははは。お前達も黒目にしてやる」
そう言うと、葉太郎が起こしていた風は黒い霧に変わっていった。
あゆみは必死にもがこうとするが、全く体が動かない。
風の渦はヒューヒューと音を立てて、黒い霧を巻き上げるように吹き荒れる。あゆみと龍太郎の姿はだんだんと見えなくなった。




