第六章 その四
あゆみとあんじょが立ち去ったあと、春子おばさんは、「馬鹿め」とつぶやき、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
そして、その目はだんだんと真っ黒に変わっていった。
何も知らないあゆみは、重い足取りで歩きながら、意を決したようにあんじょに話しかけた。
「あんじょ。とうとう里の人達まで狙われ始めた……。急がねば!
明日は佐護に行こう。今夜のうちに龍太郎に使いを出しておいて」
「はっ。かしこまりました」
翌朝、あゆみは早くから起き、天仁法師に貰った服に着替え、頭に冠をつけ、日神の剣を持った。
あゆみは、昇る太陽に手を合わせ拝んだ。
「天仁法師様。今日からいよいよ悪の大魔王との闘いが始まります。
あゆみは、あの時、法師様が六観音に張りめぐらせた結界を一三〇〇年後の今、もう一度しっかりと張り直し、対馬を邪悪な者達から守ります!
法師様、この大事な仕事を全うできるよう、あゆみに力を貸してください」
あゆみは朝焼けに赤く染まった空を見た。
「あっ」
一瞬、白い光が太陽の真ん中あたりで、きらっきらっと二度光った。
「法師様……」
あゆみは胸の前でこぶしをぎゅっと握りしめ、にっこりと笑った。
「あゆみ様。龍太郎が到着しました」
「わかった! 今行く」
(あゆみ様、また口調が変わりましたな)
あんじょは、心の中でニヤッとしながらあゆみを見つめた。
「なによー、あんじょ。なんか嬉しそうだね!」
「いえいえ、あゆみ様のもしいお姿に見とれておりました」
「ふん! 思ってもないくせに」
と言いながらも、まんざらでもない様子のあゆみ。外で待つ龍太郎にまたがると、
「あんじょ、かあさまのこと頼んだわよ!
さっ、龍太郎、佐護の観音堂まで大急ぎでお願い」
「はっ。かしこまりました」
龍太郎は、いつものように「はーっ」と大きな息を吐いて、舞い上がったかと思うと、あっという間にその姿は、小さくなって見えなくなった。
「佐護か……。
あゆみ様一人では大変だ。北の魔魅に援護を頼まねば。さて、誰がよいかのぅ」
あゆみを見送ったあんじょは、モクモクと空に浮かぶ入道雲を見ながらつぶやいた。
「あー、忘れておった! あの一族がまだおるかどうからぬが……。他にない、適任だ!」
あんじょは何か閃いたのか、急いでうちの中に入って行った。




