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魔魅ブギらんど  作者: わたなべみゆき
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第六章 その三

「実はおれ、地球防衛隊に入隊して、毎日厳しい訓練ばしよると」

「はぁ〜!」

 あゆみとはるかは、顔を見合わせて吹き出した。

ギャハハハハ……。

「もう! 拓郎。いい加減なことばっかり言わんで」

 半分笑いながら、はるかが睨んで言った。 

「ははは……。やっぱバレたか。

 本当は、こん前、ジャッキーチェンのYouTubeば見て、かっこ良かったけん、毎日、山で練習しとるったい」

「はぁ、それで、ケガしたと?」

 あゆみは、顔の絆創膏を見ながらつぶやくように言った。

「ああ。木から落ちた」


 カラーンコローン

「ほら、ホームルームが始まるけん、早よ行こう」

 そう言うと、拓郎はそそくさと教室へ向かった。

 終業式も終わり、皆んなは「じゃーねー!」「あとから遊びに行こう!」

 ガヤガヤと話しながら、教室を出て行った。

 あゆみもはるかと拓郎と三人で教室を出ようとしていた時に、担任の近藤先生から呼ばれた。

「少しだけ話したいけど、大丈夫かな?」

 あゆみは、はるかを見た。

「あゆみちゃん、靴箱んところでまっとるけん、話が終わったら一緒に帰ろう。

 拓郎はどうすると?

 地球防衛隊の訓練があるんなら、先に帰っていいよ。ははは」

「そやな。先に帰っとく。じゃあな!」

 拓郎は、急ぎ足で帰っていった。


「天野、今日は顔を見れて安心したぞ。

 お母さんの具合はどうだ?」

 担任の近藤先生は穏やかにあゆみに語りかけた。

「うーん、まだ変わらないんです」

 あゆみは、下を向いていたが、顔をあげまっすぐに先生を見た。

「そうか、大変だな。

 天野はお母さんと二人ぐらしだったよな。一人で大丈夫か?」

「え、ええ。いろいろ手伝ってくれる人もいるから……」

「親戚の人か?」

「そ、そうですね! 親戚みたいなものです」

 そう言いながら、あんじょの顔を思い出して、あやうく吹き出しそうになった。

「何かあったら遠慮せんで連絡しろよ。

 はい! これが先生の携帯電話の番号」

 先生は、自分の電話番号を書いた紙をあゆみに渡した。

「夏休みもゆっくり出来んかも知れないが、まぁとにかく、楽しいこともきっとあるから、頑張れよ」

 先生はあゆみの肩に手を乗せるとニッと笑った。

「はい!! 頑張ります」

 あゆみもにっこり笑って、元気な声で答えた。

(だって私が頑張らないと、対馬が大変な事になっちゃう!)

 心の中でそうつぶやきなから。


「はるかちゃーん、待たせてごめんね!」

教室を出たあゆみは急いで、靴箱で待ってるはるかの所に走って行った。

「あゆみちゃん、急がんでいいのに! 拓郎みたいにコケたら大変だよ」

 二人はまた顔を見合わせて、大笑いしながら、山道を帰った。


「じゃあ、あゆみちゃん。ここでバイバイやね! あゆみちゃんのお母さん、早く良くなるといいね」

「うん、ありがと」

 二人は見えなくなるまで、互いに手を振りながら帰った。

 はるかの姿が見えなくなった時、

「あゆみ様」

 あゆみは顔を動かさず、目だけであんじょを見た。

「また、来たの! もう、おうちで待っててって言ったでしょ 」

 あんじょは、あゆみの側に来ると、

「いやいや、黒の魔王が襲ってくるやも知れません。心配で、じっと待っておれません」

「私なら大丈夫! 法師様の術を伝授してもらい、相当な訓練を積んだんだから!」

 そう言いながら、ふと拓郎のことを思い出し、プッと吹き出してしまった。

「なんですか。気持ち悪い! 急に笑い出したりなさって」

「ははは。学校の友達がね……」

 あゆみがあんじょに向かって話しかけたところだった。

 きゃあー。助けてー!

近くの畑から、女性の叫び声が聞こえた。

「あんじょ、今、叫び声がしたわね!」

「はい。向こうの畑から聞こえましたね」

「行ってみよ!」

 二人は道脇から細い畦道あぜみちに入り、声のする方へ向かった。

「あ、春子おばさんだ!」

 春子おばさんは畑の真ん中で、腰を抜かしたように、尻もちをつき、怯えた顔をしていた。

「春子おばさん。どうしたの?」

 あゆみは、春子おばさんの側に行って、肩に手をやり、声をかけた。

「ああ、あゆみちゃん。ああ、良かった」

 あゆみの手をしっかり握ると、安心したように大きく息をついた。

「春子おばさん、何があったと?」

 あゆみは、春子おばさんの顔を見て優しく聞いた。

「それかね、畑の草取りをしてたら、黒いかたまりのような物が近づいてきたとよ。 蜂の大群かと思って、払いのけたら、急に目が出てきて、おばちゃんをギロっと睨んだと。 

 もう恐ろしゅうて、恐ろしゅうて、腰をぬかして、倒れてしもうた。

 そしたら、おばちゃんの顔に向かって黒いかたまりが襲ってきたから、びっくりして大きな声で叫んでしもうたとたい。

 ああ、あゆみちゃんが来てくれて良かったぁ。有難うね」

 あゆみは、母が張った結界が黒の魔王に破られかけている事を感じて、ずんと身体が重くなるのであった。

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