第六章 そのニ
「あんじょー! どうしよう、どうしよう」
あゆみは困った顔で助けを求めた。
「さっきまでの勢いはどうなさったのですか、あゆみ様」
あんじょは、少し呆れ気味にあゆみを見た。
「えー! そんな事言ったって。
あんじょ。そう言えば、今日って何日だっけ?」
「日にちも判らなくなりましたか! あゆみ様、今日は七月二十日でございます」
あゆみは、少し考える表情になると、
「あー、大変! 明日は終業式だわ。それで先生がうちに来たのね」
あゆみの目はよく動く。大きな目をクリクリと動かしながら、納得した様子でうなづいた。
「明日は、とりあえず学校に行くことにする! はるかちゃんや拓郎にも会いたいし。佐護に行くのは明後日にしましょう……」
そう言い終わらないうちに、大きなあくびをして、母の布団の端に倒れ伏した。
「お可哀想に……。お疲れになったことでしょう」
そう言いながら、薄い掛け布団をあゆみにかけた。
次の日、あゆみは久しぶりに学校へと向かった。
「あっ! あゆみちゃーん。おはよう! 今日来れたんやね。良かったぁ」
学校に着くなり、あゆみを見つけたはるかが嬉しそうに近づいて来た。
「はるかちゃん! おはよう。この前はノートありがとね」
「ううん。お母さんの具合はどう?」
「まだ、あんまり良くないと……」
「そうなんだ……。大変やね、あゆみちゃん」
はるかは、しゅんとした表情であゆみを見ると、カバンからノートを取り出すと、
「あゆみちゃん。これ、この前の続き」
「はるかちゃん! ありがとう」
あゆみは嬉しさで思わず涙ぐんだ。
と、その時。
「おー、あゆみ。久しぶりやん」
いきなり、後ろから拓郎の声がした。
「拓郎!」
後ろを振り返った二人は、驚いた声で同時に拓郎の名前を叫んだ。
「なんその顔、どうしたと?」
「拓郎、ケガしたと? 大丈夫?」
拓郎は、右の目の下から頬にかけて、大きなガーゼを絆創膏でとめていた。
「うん、名誉の負傷たい。これぐらい何てことはない!」
「拓郎、どうやってケガしたと?」
あゆみが聞いた。
「う、うん。ドッヂボールの練習で、思いっきりコケた!」
「あははは。拓郎! あんたさぁ、私達に嘘ついとるやろ」
はるかがギロリとした目で拓郎を見て言った。
「えっ!」
拓郎は、はるかを見た。
「先生に聞いたっちゃけ。夏休みに拓郎が選抜で試合に出るなら、応援に行きたいち思うて。そしたら試合とかないち言われた」
「その先生、ドッヂボールの試合のこと知らんちゃない?」
拓郎は、はるかを見ずにそっけなく言った。
「知らんわけないやん」
はるかは少し怒った顔で早口に言うと、拓郎を責めるように見た。
あゆみは、拓郎が少し気の毒になって、心配そうに顔をのぞきこんで言った。
「拓郎。それならその顔の傷はどうしたと? 久しぶりに会ったら、日に焼けて真っ黒になっとるし、少し痩せたっちゃない?」
「引き締まったって言うてくれんかなぁ」
ぷぷぷ
はるかが急に吹き出した。
「拓郎! あんたさぁ、そんなすぐバレるようなウソついてさぁ。ははは……。
大体、何しよっと? 私達に内緒にせんでいいやろ」
「そうよ、拓郎。隠し事せんで、何でも話してよ」
あゆみも拓郎を見て言った。
「わかった。本当の事言うから、びっくりすんなよ!」
「うん」
あゆみとはるかは、同時にうなづいた。
「実は、おれ……」
あまりに、拓郎が神妙な顔で言うので、
二人は思わず唾をゴクリと飲んだ。




