第五章 その四
あゆみは初めて見る黒の法師に、一瞬、凍りつきそうになった。
(ヤバっ! これがほんとに法師様のお兄さん……)
全てが黒づくめで、身体も顔も黒く、その上、全身に黒い霧をまとっていた。
背丈が小さいと聞いていたが、マントのようなものを羽織った身体は、見上げるほど大きく、目だけが異様に怪しい光を放っていた。
「兄様。今は、お天道様が目に見えないだけ。昼も夜も、晴れの日も雨の日も、お天道様は変わらず輝いておりますぞ」
そう言うと、法師は白い杖を天にかざした。
すると、闇夜の中に太陽が現れ、光を放った。
「ははは。そんなまやかしの術が私に通じると思うか。今や私は黒の魔王の力を得ている。昔のちっぽけな私ではない」
黒い杖の先で地面にどんと突いた。
再び黒い霧はあたりを包み、また暗闇に戻った。
そして、黒い霧は触手のようにスルスルと伸びて、法師とあゆみを取り囲んだ。
「ちょうどよい。二人一緒に黒目にしてやる!」
黒の法師もお経を唱えながら、顔の前で輪を描いたり、くねらせたりした。
その度、黒い霧は法師の動きに合わせて生き物のように動いた。
黒い霧には目のような物があり、あゆみは、母と共に襲われた日の目と同じだと思いながら睨みつけた。
「あゆみ、その目を見るな!」
「あ……」
あゆみは、身体が金縛りにあったように固まり、動かなくなっていた。
ははははは……。
「娘から先に黒目にしてやろう」
「あゆみ。あわてるな!
剣の使い方と力を見ておきなさい」
法師は、はーっと声を上げると、両腕を真横に開き、そのあと右手を天高く突き上げると大声でお経を唱え始めた。
そして、胸のところで両手で玉を転がすような仕草をしたかと思うと、
「やー」と天にも響く声と共に、両方の手の平から輝く光を放った。
周りはまるで昼間のように明るく照らされている。
「あ、身体が動くようになった!」
「おのれ〜」
黒の法師は、叫びながら再び杖で地面をドンとついた。しかし、明るいままで黒い霧も戻らない。
「ダァー」
黒の法師は、杖を持ち上げ天に向かってグルグルと回した。
再び黒い霧が蘇り、辺り中を暗闇に戻した。
「兄様。兄様をいつまでも黒魔王の手先にはさせられない! ごめん」
法師は、剣の鞘についている緑の石をおすと、剣を抜いた。
それはそれは、まばゆい光で、剣を動かすと辺りがいっぺんに輝く光に包まれた。
法師は、黒の法師を目掛けて剣を振り兄を切った。そうして、最後に剣で一刺しした。
うわ~。
黒の法師は、叫び声をあげ、そのまま地面に倒れ伏した。




