第四章 その三
「それよりも、六観音へ参ろう。急ぎ結界をはる。まずは、北部の佐護からだ。行くぞ」
「ふぃーふぃ」
法師が口笛をふいた。
しばらくすると、龍太郎がやってきた。
「龍太郎!」
あゆみは、龍太郎を見ると、つい嬉しくなり笑顔で近づいた。
龍太郎はちらっと、あゆみを見ると、
「法師様、このお方は? 普通の人間ではなさそうですね。私の姿が見えておるようです」
「もう! なによ、龍太郎。そんなよそよそしい言い方しちゃって」
あゆみは、ふくれて龍太郎を睨んだ。
「はははは。あゆみは今より一三〇〇年後に生まれるのだから、龍太郎が知らなくても仕方ないな」
「そりゃあ、そうだけど……」
「とにかく、佐護に急ごう。
龍太郎、すまぬが今から我らを佐護の祈祷所まで乗せていっておくれ。遠くてすまぬな」
「かしこまりました。遠くなんてありません。ひとっ飛びでございます。それに、久しぶりに、御岳の白龍様にもお会いしたいので、ちょうど良かったです」
龍太郎は、法師とあゆみを背中にのせると、いつもするように「はーっ」と大きく息を吐き舞いあがった。
「うわー。きれい! 初めて見たわ! 対馬って、もっのすごく綺麗な島なのねー。
海も綺麗! それにちっちゃな島がものすごくたっくさん」
「そうだ! この島は本当に美しい。神々に愛される島だ。ここは浅茅湾だ」
「ふ~ん」
そう言っている間に龍太郎は、下降すると地面にそーっと舞い降りた。
「法師様。佐護につきました」
「へぇ、ここが佐護っていうところなのね。なあんか広々してるね。田んぼもたくさんあって大きな船がたくさん浮かんでる」
「そうだ。佐護は豊かな場所だ。
そして、ここには神御魂神社という由緒ある神社がある。祀られているのは神の大元となる神じゃ。
この地に一番先に参らせてもらうのは神々のパワーもお借りしたいからだ。
神御魂神社にご挨拶をしておきなさい。
法師は、あゆみを連れて川に沿って少し歩くと橋を渡り、こんもりとした木々の中に入った。
「わ! こんなところに鳥居があるー。木で出来てるよ!」
「造化三神といって、初めに現れた三柱のうちの一柱の神だ。
また、この神社のご神体は、天道女神坐像で、我ら日輪の者には母なる神となる」
「へー。そんな神様がこの島に祀られてるってすごいね」
「造化三神の内、もう一柱は六観音の最後に回る豆酘に鎮座されておる。そなたが住むすぐ近くにおられるぞ」
「えー。凄い。凄すぎる」
あゆみは目を丸くして驚いた。
それほど広くない境内であるが、鳥居の周りには塀のように石が積まれていて、神聖な空気に包まれている。
法師の参拝の仕方を真似して、あゆみも手を合わせた。
参拝を終えると、法師はあゆみを抱きかかえたと思うと、軽やかに宙を舞い走るように空中を移動した。そして、静かに地面に舞い降りた。
そこは、港に流れ込む河口の側で、草むらの奥に石を積み上げた人の背丈よりも高い塔がいくつかあった。その奥には山があり、そこは法師様の修行場だと言う。
佐護の周辺の人々は「天道山」とよび、祈祷所に拝みにくるという。
法師は奥に行くと、祭壇に向かってロウソクに火をともし、線香を焚いた。短いお経を唱えると川上に向かって、川沿いを歩いた。
「観音様の所へ飛ぶぞ。しっかりつかまりなさい」
そう言うと、法師はまた空中を飛び川上に向かった。




