第二十六章 その三
「あゆみ様、こちらでございます」
二人は小茂田方面へと向かう川沿いの道の途中から、右手に曲がる細い道へと入った。
少し行くと左側の山手に鳥居が見えた。
「信國、あそこね」
「はい。手足塚は、あの神社の横の山際にあります」
あゆみと信國は神社の鳥居の前に立った。鳥居に入る手前には金網の柵があり、日頃は入れないのだが、二人は特別な力で軽く飛び越えた。
中に入ると鳥居に一礼し、そこをくぐると社殿に向かい手を合わせた。社殿は山際に建っており、その右横の斜面に『手足塚』と書かれた看板があった。
斜面には石垣が組まれ、平らになった部分には大きな平石が置かれていて、その上に供え物をした跡もある。
あゆみは、塚の前で手を合わせると、しばらく目を閉じ祈った。
そうして「ああー」と低い唸り声をあげると、合わせた手が震え始めた。次の瞬間、目がぱっと開いたかと思うと、天を仰ぎ見、両手を高く伸ばし再び目を閉じた。だんだんと手が震え出し、小刻みに揺れている姿は、天からの力を受け取っているかに見えた。
動きが止まると手を下ろし、胸の前で両手を合わせると、何かに取りつかれたように流暢な言葉で語り始めた。
「手足塚とは、おいたわしや。しかし、武士の誇りを抱いて死を全うされたは、ここに輝かしい生きざまが刻まれておる。宗助国公の魂は、今も燦然と輝き、光に満ち満ちている。その輝かしき、宗助国公よ。なにとぞ、今、長き眠りから覚め、再び対馬の民をお守りくださいますよう願い申し上げ候。下原村鶴野の観音山にて魔王が呼び覚ました闇の霊魂を鎮めるべく、宗助国公の輝かしきその光で闇を照らしてくださり給え。あらぶる魂に残るかすかな光と誇りを呼び覚ましてくださり……」
その口調は感情豊かで、まるで古いお芝居のセリフのようであった。そして、この語りは数分間もの間、切れ目なく続けられた。
あゆみは、手足塚に眠る宗助国公の魂に向かい、体中の全エネルギ―を注ぎ込むかのように激しく、そして慈しみを込めて光の召喚の儀式を行った。あゆみの目からはとめどなく涙が溢れだし、それはいつしか光を呼び込む鏡へと変わっていった。
側に居た信國は日神の力を目の当たりにし、ただただ驚きの表情で見つめ続けるのだった。




