第二十六章 その一
周囲を渦巻いていた雲が消え、再びその姿を現わした大魔城。雲に覆われる前よりもはるかに強い魔力を感じさせ、おどろおどろしい姿であゆみ達の前に立ちはだかっていた。それは、これから起こる恐ろしい出来事を暗示するかのようでもあった。
「信國、どういうこと? さっきよりも力を増しているように見える」
「おそらく、怨霊と化した魂の召喚に成功したのでしょう」
少しの沈黙のあと、安國が叫んだ。
「父上!大魔城の周りに人の姿が見えます! しかも横一列に並んで立っている」
「なんだと!」
信國はそう叫ぶと、もう一度、城の周辺に目を凝らした。
「確かに、大魔城を取り囲むように人が並んでいる!」
「信國、安國、もう少し近づいて確かめてみよう」
あゆみがそう言うと、三人は道脇の茂みから少し前の方へと移動した。
「何ということだ! あれは人間の盾……。手のひらに穴が開けられ、ロープで繋がれている」
「なんてひどいことを……」
繋がれた人々は苦痛に顔を歪ませ、耳を棲ますと呻き声が聞こえてくる。
「あっ、大変だ! 母上と大ババ様に兄上、盛國。それに優奈殿や沙織殿がいる! 父上、樫根の観音堂と阿連が再び襲われたのでは!」
「きゃあ! 向こうには、はるかちゃんも……。私のかあさまもいる! 許せない。信國、私、助けに行ってくる」
あゆみは取り乱して走り出そうとした。髪も目も真っ赤になっている。
信國は走り出そうとするあゆみの手を掴んで叫んだ。
「あゆみ様! 待って下さい」
「信國、離して! どうして止めるの」
あゆみは、信國を睨んで手を振りほどこうとした。
「あゆみ様! あれは幻影かもしれません」
「幻影ってどういうこと?」
「私には、あそこに囚われている人が母や先代である父、そして妻や子ども達の姿の見えます。しかし、先代はもう亡くなって居りませんし、子どもである安國はここに居ります」
「え?」
「きっと、見る者にとって大切な人の姿が見えるように仕組まれているのです。
ここは、元寇にゆかりのある人の亡骸がたくさんあった地。想像を絶する苦しみは、やがて恨みの塊となり、時を経て鬼のように化すことは、よくあります。それを巧みに利用している大魔王の仕業でしょう」
「大魔王。人間の盾なんて酷いことを思いつくのが恐ろしい……」
「あゆみ様、お忘れですか?」
「えっ、何を?」
あゆみは目を見開き信國の顔を見つめた。




