第二十五章 その三
悪の大魔城を見つめるあゆみの側にすっと安國が近づき、あゆみに耳を近づけるように合図すると、耳元で囁いた。
「あゆみ、大丈夫か?」
「たくろ…、あ、安國」
「拓郎でいいよ。大丈夫か? 怖いのか?」
あゆみは首を振ると、大魔城を睨み小声で言った。
「一三〇〇前、あそこにあった観音堂に、法師様と結界を張った時のことを思い出してたの。あんなに活気があって、みんな楽しそうにしてたのに。こんな暗く恐ろしい場所にさせてしまったのが悔しくて……」
あゆみは握りしめた拳をふるわせた。
「感情的になるな。怒りに我を忘れるな」
「えっ?」
あゆみは驚いたように安國の顔を見た。
「俺が爺さまから、ずーっと言われてきた言葉だ」
「たくろ…」
あゆみがそう言いかけた時、少し離れた所にいた信國が近づいてきた。
「あゆみ様。やはり奴らは、この地に残る恨みや怒りなどのマイナスのエネルギーを集めているようです」
「なぜ、それが分かるの?」
あゆみは不思議そうに信國を見た。
「森のスパイに調べに行って貰いました」
「え、森のスパイって?」
「俺ら達だよ! あゆみ様」
「山気! それと、えっと……わら」
「ククク。あゆみ様、俺らは、笑びこだよ。ククク。覚えて下さいよぉ」
「わかったわ! 笑びこね。もう、大丈夫!」
「ククク」
「だけど、笑びこはスパイには向いてないよ~。あやうく敵の陣地で笑いそうになったから急いで帰ってきたのさ」
「えっ! そうだったの」
あゆみは目を丸くして驚いた顔で笑びこを見た。
「ククク。俺ら、スパイに向いてない、ククク」
「もう、わかったから~。それで、大魔城の中の様子を私にも教えてくれる?」
あゆみは、苦笑いしながら山気を見て言った。
「あゆみ様、あの城の中には恐ろしい気が渦巻いております。その渦の真ん中にはなんと、おっそろしげな祭壇があって、そこには見た目、まるで観音様のような像が祀ってありました」
「観音様?」
あゆみと安國はそろって声をあげ顔を見合わせた。そして、すぐさま信國のほうを見た。
「あゆみ様。大魔王達は闇の儀式で、怨霊と化した魂を召喚しているようでございます」
「召喚て……。 まさか、闇の力で、この地に眠っている悲しい歴史の犠牲者を……」
「あゆみ様、祭壇に供えられた物はなんだと思う?」
「え、それは何?」
「山鳩の血さ。グラスに注がれた真っ赤な血が供えられたのさ。そのとたん……。わー、思い出しても背筋が凍りそうだぁ」
「ククク。真っ黒な悪魔の目が開いた。ククク」
山気と笑びこは、その時の恐怖を思い出した様でぶるぶると震え出した。
「山気と笑びこ、危ない目に遇いながらも調べに行ってくれて、ありがとね! もう森に帰って遊んでていいよ」
「わーい。笑びこ、帰ろ、帰ろ、森に帰ろ~」
「ククク、帰ろ帰ろ、森に帰ろ。ククク」
山気と笑びこは、嬉しそうにふわふわと飛びながら、小茂田の方向へと帰っていった。
「信國。このままでは恐ろしい事が起きる。急いで大魔城を攻めよう!」
「あゆみ様、しかし、このまま攻め入ったら奴らの罠にはまるだけです。策を練ってからの方が……」
信國の言葉が終わらないうちに、更に空は暗くなり、再び雷鳴が轟いた。
「わぁ、父上! 大魔城が……」
安國は驚きのあまり、目を見開き言葉を失い立ちすくんた。




