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TSUSHIMA 魔魅ブギらんど  作者: わたなべみゆき
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第四章 その一

 あゆみは目をつぶって小さくかがんだ。

「おまえ……」

 あゆみを見た法師は小さくつぶやいた。

「法師様……」

 あゆみは、手を合わせて、お願いするように法師の目を見た。

「法師様。誰かおりましたか?」

「いや、気のせいだった。誰もおらん。それより、黒目のことを教えてくれ」

「法師様、山に行った者が黒目になっています。山がおかしいと村の者が言っています」

「魔魅たちを使っているんだろう。

 黒の法師、なぜにそこまでやるか……」

 法師はこぶしを握ってぐっと力をれた。

「先に里に帰っていなさい。私は、龍良山(たてらやま)の祈祷所でお経を唱える。そのあと、里に行くから」

「法師様、お願いします」

 白い布をそのまま仕立てたような服を来た村人は、手を合わせて法師を拝んだ。

 村人を見送った法師は、あゆみの所にやってきた。

「出てきなさい」

「法師様、やっとお会いできました」

「そなたは今の時代の人ではないね」

 あゆみは法師をじっと見ると、こくんとうなずいた。

「大変なの。黒い霧の化け物が法師様の塔を壊し、黒の法師が復活しそうなの。魔魅たちが黒目に。かあさまがお経で封じていたら、そのまま眠りについちゃって、私、何にもわかんないんだけど、悪の魔王の一味と闘う事になってしまったの」

 あゆみは、法師を目の前にし、息もつかず一気にしゃべり続けた。

「あゆみ。落ち着きなさい」

「ええっ、なんで私の名前……」

「私を誰だと思っておる」

 そう言うと法師はにこりと笑った。

「五つで神童と言われ、

 読心術 

 呪術

 飛行術

 病の平癒術

 雨乞いの術

 九つの時に都へ修行に行き百以上の術を習得した。

「すっごーい! 法師様、天才! ううん、まるでスーパースター! ううん神様」

 はははは…。

 あゆみを見て、法師は大笑いした。

「そなたは、かなり先の時代から来たとみた。そなたの時代はいつだ」

「二〇二四年です。それが今、大変な事になってるの! 黒い霧が法師様の塔を荒らして、黒の法師が復活しそうなの」

「詳しいことは、あとで聞こう。今は黒目の魔力を封じるのが先だ。

 そなたも一緒に来なさい。戦い方を伝授しよう。そんな丸腰では、闘えんだろう」

「有難う! 法師様。そのためにこの時代に来たの」

 法師はあゆみを抱いて空を飛び、龍良山の祈祷所へ舞い降りた。 

 祈祷所に入ると、ロウソクを灯し、大量のお香をき、巻物を広げると、迫力のある低い大きな声でお経を唱え始めた。

 だんだん大声になり、木魚と太鼓を叩く音も大きくなり、あゆみは違う世界にいる気持ちになっていった。

 白く立ち上る煙の向こうに、もう一人の自分がいる。

 白い衣装を来ている。頭には何かをつけている。

 そして、その奥の方で光るあやしい目があゆみを見ている。背筋が氷りそうになった。すぐ側で法師の声が聞こえる。導かれるように法師の後を歩く自分の姿を見た。

 最後の方はわけがわからない高揚感に包まれ、立ち上がり大きな太鼓を打っていた。

 お経はやみ、急に静まった。法師はあゆみに向かって声をかけた。

「しかし、そなた。ようこの時代に来れたな。さすがは私のだが、どの呪術を使ったんだ?」

「いや。それが自分でもよくわかんないんだけど、初めに来た時は子守歌のような歌が聞こえてきて……」

 あゆみは法師にタイムスリップした時の話をした。

「ほう……。そなたには、強い魔力が潜んでいるように思うが、それだけでは来れん。誰か道を開いた者がおるな。魔魅の仕事だろう。

 そなたの乳母は誰じゃ」

「うば? 何ですか、それは?」

「はっはっは。そなたを育てたものじゃ」

「育てたのは、かあさまだと思うけど、その他には、小さい頃はいっつも家に白ババがいたかなぁ」

「おお。白ババか。そうか、そうか」

「どういうこと?」

「白ババは、母慈しみの結晶のような魔魅だ。

 そなたの時代はそうではなかろうが、古い時代は民のほとんどが貧しく、産んだ子を皆、育てることができない親が多いのだ。

 泣く泣く子を捨てる。まだ乳飲み子だ。捨てられた赤子の声が母の悲しみの化身となり、白ババが現れた。乳飲み子に乳をやり、育ててくれた。そして、働き手になる頃に、里の家に返し続けた。

 母たちの辛い辛い怨念のような思いと、慈しみが合わさって生まれた白ババは、そなたを取り上げ、いつも陰から守って来たんであろう」

「えー、そうなの。白ババって、いっつも面白いことばっかり言うから、そんな悲しい事があったって知らなかった

 でも法師様って、すっごい人なんですね。ほんとに、私のご先祖様なのって思うくらい……。

 みんな、神様のように思ってるし、法師様が居なくなって、一〇〇〇年以上経つ私の時代まで、その名が残ってて、みんなが拝む人なんて凄すぎだよ」

「私は、皆がつつがなく暮らすことが大事だと思っているだけだ。

 偉業を成し遂げたと言うのは、必要な時に天からの要請に応えただけのものじゃ。

 そなたは、カメムシが柱を何回も何回も往復して歩いているのを見たことがあるか?」

「カ、カメムシですか? いいえ……。カメムシ、興味ないし、それに臭いし……」

 あゆみは小さい声でつぶやきながら、いぶかしげに法師を見た。

「カメムシだけではない。いろいろな虫や動物の動きを見つめてみなさい。何のために、同じ動きを何回も何回も繰り返す。無駄な事をしていると思うだろう。

 しかし、意味などないんじゃ、つつがなく暮らす。それで良い。それが良いんだ。

 人間だってそうだ。毎日毎日、起きては顔を洗い、飯を食らい働く。そして夜が来たら、また飯を食らい寝る。

 意味がないと思うであろう。カメムシも同じだ。初めから意味などないのだ。つつがなく幸せであればよい。

 異常がおきると、自然の中で生きておる虫や動物は、大量に発生したり、いなくなったり、死んでしまったりする事で異変を知らせる。

 つつがなく暮らせることの幸せに感謝できないものは、一生生きても幸せを手に入れることは出来ない。そなたには、これがわかるか?」

「法師様。こんなことになって、私、今までの普通の生活がほんとに幸せだと思ってる。学校で友達と遊んだり、宿題したり。

 なんでもなかった事がとっても懐かしくて、恋しくて」

「そうか。そなたは生きていることの幸せに、ちゃんと気づけたか。そうか、そうか。

 あと三日のうちに私は兄の法師を封じ込め、共に塔に入る、八日目の朝、二人してこの世にはおらぬようになる。

 黒の魔力にとりつかれた兄にこれ以上、悪行を続けさせられない」

「えー! 黒の法師って法師様のお兄さんなの? 私のご先祖様のお兄さん!  

 えー、どういうこと? 意味わかんない」

 あゆみは、あまりの驚きに目を見張るばかりだった。

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