第一章 その一
♪てんてんてんの おほうしさまが
つかにはいって しまをまもる
てんてんの おほうしさまが
つかにはいって しまをまもる
暗い闇の中にうっすらと見える島影は、周囲を白い霧で包まれていた。
静かな優しい歌声は、まるで子守唄のよう。
突然、暗闇に響く不気味な声。
「帰ってきたぞ、この島だ! ほら、霊気が島中に漂っている。やっと探し当てた。
懐かしい我が故郷よ!
わっはっはっははは……」
天空から響く、低くて太い笑い声は、風を呼び波を巻き上げた。
「おはよう! はるかちゃん」
「おはよう! あゆみちゃん。昨日の雨と雷、凄かったね〜」
「うん。怖かったね!」
木々に囲まれた森の中の小学校に子ども達の元気な声が響いている。ここは、対馬の南にある内山小学校。
「拓郎は、まじで気づかんやったと? あのすっごい雷の音に!」
「ああ、ドッヂボールの練習で疲れて爆睡しとったけんね」
「マジ? 信じられんねー、あゆみちゃん」
元気な話し声はずっと続く。
内山小学校は、山の中にある小さな小学校で、子どもの数も全部で十五人である。
学校が終わると、子ども達は山道を歩いて帰る。
「ねぇねぇ、あゆみちゃん、今日は遊べると?」
「ごっめーん、今日も家の手伝いを頼まれてると」
「あゆみちゃん、いっつも忙しいね〜」
「ほんと、ごめん!」
あゆみは、両手を顔の前で合わせて、ウィンクしながら、はるかにあやまった。
「今度さぁ、あゆみちゃんちに行っていい?」
「えっ、うち?
いや、うちは山ん中だし、お母さんに聞いてみないと……」
「あゆみちゃん、お母さんに頼んでみて!拓郎も行ってみたいって言ってたから」
「うん、聞いてみるね……」
あゆみとはるかは小学校六年生で同級生。
仲良し三人組のうちの二人だ。もう一人の仲間である河野拓郎は、ドッヂボール大会に向けての練習で、まだ学校にいる。
「じゃあ、また明日ねー」
あゆみは、はるかと別れ、とぼとぼと山道を歩いた。
「なんで、うちの家ってこんな山の中にあるんだろー! まっ、山は楽しいからいいけどね」
ピーヒョロロ、ピーヒョロロ。
トンビがゆうゆうと空を飛び、あたりには木々がこんもりと茂った山かあり、その側には、綺麗に耕された畑もある。
「のどかな風景! ほんと平和だよね」
あゆみは、目の前にそびえる雄大な龍良山を見ながら、ふふふと笑った。
「姫! おかえりなさいませ」
その声にあゆみは顔をしかめると、声をひそめて怒った。
「もう! あんじょ。まだ出てこないで! 人に見られたらどうすんのよ」
「大丈夫です。葉太郎をつけないと人間には見えませんから。おっほ、おっほ」
「それに姫って呼ばんで!」
「姫は姫だから仕方ありません」
あんじょと呼ばれた生き物は、そう言ってあゆみの側に来ると、にんまりと笑った。
あんじょとは、魔魅と言って、島を守る精霊のような守り神。あゆみの肩ぐらいの背丈だ。
耳は赤く角のように尖って、体の色は緑色。目は青く大きくて丸い形をしている。
髪は黄色で、帽子のように頭にへばりついている。
愛嬌があって優しそうな顔だ。
「あら、あゆみちゃん、今帰っとるとね。おかえり」
後ろから呼びとめる声がした。
「えっ!」
体中がドキッと脈打った。
「え、えー。今帰ってると。ただいま」
おそるおそる振り返ると、山里に住む春子おばさんだった。
「あゆみちゃん、なんか独り言ぶつぶつ言ってたけど、どうかしたと?」
「えっと、急に曇ってきたから雨でも降るのかなって、つい 独り言言ってたんかな〜」
「そう! 今にも雨が降ってきそうになったから、おばちゃんも畑から帰るところよ。雨が降り出さんうちに、早うかえらんとね」
「はーい」
あゆみはバタバタと小走りで駆けて行った。